第117話 体育祭準備②

「今回のターゲットはオパールのイヤリングだ」


 その頃。瑠奈達は相賀の説明を受けていた。


「場所は隣町の廃ビル。下部組織が根城にしている。その組織はこそ泥の小さな集まりで、今まで盗んだ物を売りもせず部屋に保管しているらしい。今回のターゲットはその中の一つだ」


「今まで盗んだものってことは、ターゲット以外も盗品なんでしょ? 全部盗めばいいんじゃないの?」


 ソファに座った瑠奈が尋ねる。


「まあそれでもいいんだけどな……かなり量があるから、残った盗品は警察を呼んで処理してもらうしかないな」


「実鈴ちゃんを呼ぶんだね」


 瑠奈の隣に座った詩乃が頷いた。


「ああ。今のところはターゲットを絞っただけだから、計画とかはまだ立ててない。けど、一応一週間後のつもりだ。また伝えるよ」


 瑠奈はじっと相賀を見つめていた。



「――ねえ、相賀」


 詩乃達が帰ったあと、地下室に残っていた瑠奈はソファに座ってうつむいたまま言った。


「ん?」


 デスクでパソコンを操作していた相賀が振り返らずに返事をする。


「……この間、何があったのか話してくれないの?」


 瑠奈が問うと、キーボードを打つ相賀の手が止まった。


「あ、いや、ほんとに無理なら話さなくても――」


「別に。何も無い。ボスと伊月の関係を知らされただけだ」


 相賀はぶっきらぼうにそれだけ言うと、再びキーボードを叩き始めた。


「……」


 瑠奈は何も言えずに立ち上がった。


「……ごめん、嫌なこと訊いて。もう訊かないから」


 そして部屋を出ていく。


 扉が閉まり、相賀はそっとうつむいた。


「……ごめんな、瑠奈……」



「――そろそろ動く。怪盗共も来る頃だろう」


 会議室にいたベクルックスはフォーマルハウトと話していた。


「じゃあ俺も動くとするか」


 呟いたフォーマルハウトが立ち上がる。


「あいつや怪盗達がどんな顔するか見ものだな」


 薄ら笑いを浮かべるフォーマルハウトに、ベクルックスはため息をついた。


「……性格わりぃな」


「ベクルックスには言われたくないな。ベクルックスの方が人殺してるしな」


 冷たい口調で言ったフォーマルハウトは会議室を出ていった。ドアが閉まると同時にベクルックスが舌打ちをする。


「痛いところ突いてきやがって……」



 翌日。学級旗作りは大詰めになっていた。


 海音が慎重に黒い絵の具でペガサスの体をなぞっていく。


 そして筆を学級旗から離し、水が貼られたバケツに入れた。


「……できた……」


 海音が息をつきながら呟くと、歓声が上がった。


「スゲー! これ、オレらのクラスが学級旗コンクール優勝じゃね!?」


「当たり前だろ! こんなのどのクラスも作れねぇよ!」


 慧悟と竜一が一際大きな声ではしゃぐ。


 煌めく天の川を背景に、夜空を力強く駆けるペガサスの学級旗を前に、一同は達成感に浸った。


「…………」


 伊月は、教室のドアから歓声を上げるクラスメート達を覗いていた。


「――何やってんだよ?」


 突然声をかけられ驚いて振り返ると、そこには相賀が立っていた。


「……別に」


 つっけんどんに言った伊月はすぐさまその場を離れようとした。しかし「待てよ」と呼び止められる。


「学級旗を作りたいなら顔出せばよかったじゃないか」


 伊月は足を止めた。そして振り返る。その目は鋭く相賀を捉えている。


「……んなわけあるか。何を言っているんだ貴様は」


 冷たく言い放った伊月は早足で廊下を進んでいった。相賀はその小さな背中をじっと見つめていた。

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