第118話 忠告

 その夜。相賀は自室のベランダで電話をしていた。一等星のない寂しい夜空を見上げながらスマホを耳に当て直す。


「……ああ。だから、計画が固まったら連絡する」


『それは構わないけれど……貴方、本当に大丈夫なの?』


 電話の相手は実鈴だった。


「大丈夫って……何が?」


『この間、大田君となにかあったらしいじゃない』


「…………」


 相賀は空から目を離してうつむいた。


「……悪い、今は話せない。けど、いつか絶対話すから」


『……わかったわ』


 相賀には、実鈴が今どういう表情をしているのかわかった。なにか言いたげな顔だ。瑠奈も翔太もそうだった。


『じゃあ、決まったら教えて』


「ああ」


 相賀は終話音が鳴るスマホを耳から離し、再び空を見上げた。どこか物寂しい夜空がどこまでも広がっている。


(このまま、どこか遠くに……行ければいいのに)


 しかし、瑠奈達の顔が脳裏を駆け巡る。


「……ダメだな、俺。こういうところ」


 自虐的な笑みを浮かべる。


(こういう大切なところ……決めきれないんだから)



「……悪いな。計画が繰り上げになって」


 三日後。平日の夜ではあるが、怪盗達はビルの屋上に集合していた。


「ターゲットが取引されちゃうんでしょ? 仕方ないよ」


 謝るAに、Rはそう言った。


「行こう!」


 サングラスをかけたUとTも頷く。


「……ああ」


 白手袋をはめたAは頷き、ワイヤーを放った。


「実鈴には連絡してあるから、今回はビル内の奴らを倒してオパールを盗めばいい。あとの盗品は任せよう」


 Aは全員が廃ビルの屋上に到着したのを見てそう言った。


『ターゲットがある部屋は最上階。AとUは屋上で待機、RとTは下の階で警備員を引き付けて』


「OK!」


 Kに返事をしたRはTとともに廃ビルに飛び込んだ。



『OKだよ、A』


 十分ほどして、Rから連絡が入る。


「わかった」


 頷いたAはUとともに廃ビルに入った。


「ターゲットがあるのは四階だ。一つ降りよう」


 AはUが頷くのを見ると階段に向かった。



「――っ!?」


 階段を駆け降りて廊下を走っていたAは、気配を感じて足を止めた。


「A? どうしたの?」


 後ろを走っていたUが尋ねてくる。


「……いる」


「え?」


 Uがきょとんとする。


「――ここは組織の奴らがいるところじゃなかったはずなんだけどなぁ」


 Aが突然、大きな声を出した。


「何でここにいる?」


 すると、二人の先にある曲がり角の向こうから足音が聞こえてきた。


「――よく気づいたな」


 曲がり角から出てきたのは――ベクルックスだった。


『どうして……そんな情報なかったのに!』


 Kの焦る声が通信機から聞こえた。Aはそれには答えず、険しい表情でベクルックスを睨んだ。


「もうお前の気配は嫌というほど感じてるんでな」


「ハッ……流石は――」


「今回、お前に用はない。帰ってもらおうか」


 言葉を遮られたベクルックスは肩をすくめた。


「……帰ってもらうのは貴様らの方だぞ?」


 と、右手を上げて見せる。その手には今回のターゲット・オパールのイヤリングがあった。


「なっ……!?」


 AとUが目を見張る。


『嘘っ……!』


 それと同時に、YとKも息を呑む。


「それと、今回は忠告に来た」


「……忠告?」


 Aが眉をひそめた。


「――仲間を信じるな。誰が敵で誰が味方か、それを握っているのはこちら側組織だ」


「…………」


 ベクルックスは厳しい目で自分を見る二人を見据え、続けた。


「信じたいなら信じていればいいさ。――裏切られても、恨まないならな」


 捨て台詞を吐いたベクルックスは踵を返した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る