第113話 夜の対峙
「……連絡はしてみたの?」
翔太が顔を上げて訊いた。
「してるけど……」
「電話は繋がらんし、メッセージ送っても既読にならんのや」
海音に続き、拓真が肩をすくめた。
「……どうしたんだろうね」
翔太はそれだけ言って窓の外に顔を向けた。
列の一番前に座って話を盗み聞きしていた大田伊月はそっとうつむいた。
その夜。相賀はいつもの丘に来ていた。十月半ばということもあり、風に乗った紅葉が舞い上がっていく。
見上げる空には雲一つなく、天の川が流れている。
(秋の一等星って、フォーマルハウトしかないんだよな……フォーマルハウトか……)
自分達の情報を組織に流しているスパイ、フォーマルハウト。ベクルックスは相賀がフォーマルハウトだと嘘をついていたが……
「……違う。俺はスパイじゃない」
相賀は自分に言い聞かせるように呟いた。と、冷たい強い風が吹き、相賀の少し癖がついた髪を弄んでいった。
「……寒っ」
少し震えた相賀は着ていたスカジャンのポケットに両手を突っ込んだ。
その時、舞い散る紅葉の向こうに人影が見えた。それに気づいた相賀が顔をしかめる。
「……何しに来た、ベクルックス」
丘に登ってきたのはベクルックス――大沢伊月だった。
「貴様こそ何をしている。吹っ切れたのかと思っていたが」
伊月は相賀と同じようにポケットに手を突っ込み、仁王立ちした。
「何にそんなに迷っているんだ。お前の信念に基づくなら、今すぐ組織に来るべきだろう」
「そんなことわかってる!!」
相賀は思わず叫んでいた。そしてがくりとうなだれる。
「わかってる……けど、お前達の言いなりになるなんて死んでもごめんだ。それでも皆に迷惑はかけたくない……」
「貴様は、どこまでも仲間を考えるんだな。……反吐が出る」
吐き捨てた伊月は相賀を睨みつけた。
「そんなに仲間を大切にして何になる。命の危険が迫ったら結局は自分の命を優先する。それが人間だ。守ったところで、得があるわけでもない」
「ああ……お前にはわからないだろうな。人の命を平然と奪えるような人間にはな」
伊月はくっと唇を噛んだ。
「……やっぱり、組織には行かねーよ。考え方が根本的に違うからな」
相賀はそれだけ言うと伊月に背を向けた。そして歩き出す。
「あのことはどうする?」
伊月が投げかけた質問に、相賀は足を止めた。
「このまま黙っているつもりか」
「…………全てが終わってから話す。お前達と決着をつけた後でな」
長めの沈黙の後、伊月を鋭い目で見据えた相賀は再び歩き出した。
「……しぶとい奴だ」
小さく吐き捨てた伊月は相賀とは逆方向に歩き出した。
翌朝。机で課題をやっていた瑠奈は教室に入ってきた相賀に目を見張った。
「相賀!」
瑠奈は思わず立ち上がり、相賀に駆け寄った。
「大丈夫!? 来ていいの!?」
「ああ。……悪かったな、心配かけて」
「ホントだよ! 何の連絡もなしに!」
「悪かったって。そんな怒るなよ」
相賀は瑠奈をなだめつつ教室の隅に視線を向けた。そこにある机には伊月がついている。
(絶対、お前らの言いなりにはならない……!)
その視線を感じていた伊月は「……うぜぇ」と小さく呟いた。
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