第140話 激昂

「ったく、ベクルックスが言ってなかったか? 仲間を信じるなってな」


 軽く頭を振ったフォーマルハウトは薄ら笑いを浮かべた。


「裏切られたとわかったときのあいつの顔、見ものだったぜ。裏切られた人間はどんな顔するのかっていうのがわかったな」


 唐突に、Aは胸の中に激しい炎が燃え上がるのを感じた。どうしようもない怒りが渦巻く。ずっと信頼してくれていた人を平気で裏切って、あざ笑って。


(……許せない)


 ギュッと握った拳が震える。


『A! 抑えろ!』


 Kが察知したのか叫んでくる。けれど、もう止まらない。Yの『X!!』という悲鳴のような声が聞こえないくらいに。Aはいつの間にかフォーマルハウトに飛びかかっていた。



「うう……」


 Xは追い詰められていた。いくら攻撃をしても当たらない。それなのに、出した攻撃の何倍もの攻撃を浴びせられる。


『実鈴の……お兄さん……』


 通信機からAの呟くような声が聞こえてきて、耳を疑う。


(え……?)


 ミルキーウェイ号で出会った大空を思い出す。自分の父親・レオンを彷彿とさせる屈託のない笑顔で、爽やかな青年という印象だった。まさか、フォーマルハウトだったとは……


『A! 抑えろ!』


 Kが叫んでいる。


(Aが暴走する……! 止めないと……)


 何とか立ち上がろうと床に手をつく。


 と、アルタイルが倒れているXに近づいた。そして胸ぐらをつかんで壁に押し付ける。


「ぐっ……!」


 そのはずみで割れていた仮面が外れ、床に落ちる。


『X!!』


 Yの悲鳴のような声が聞こえてくる。


「ようやく終わりみたいだな」


 アルタイルが不気味な笑みを浮かべる。


「……まだ、そうだとは思わないね」


 Xは不敵な笑みを浮かべてみせた。しかし、胸ぐらをつかまれる手に力がこもり、顔を歪める。


「戯言は終わりだ」


「く……っ!」


『ダメだX! 誰か、行ける人は……!』


 Xは必死で意識を保ちながら右手でポケットから催眠弾を取り出した。そしてアルタイルの顔に向けて投げる。しかし、アルタイルは左手でそれを払った。その瞬間、アルタイルの顔に閃光弾が命中した。


「なっ!?」


 驚いたアルタイルがXから手を離す。


「ハァ、ハァ、ハァ……」


 咳き込んだXは少しふらつきながらも仮面を拾って走り出した。


『どうやったの!?』


 Yが尋ねてくる。


「……さっき、アルタイルが催眠弾を三発払ったとき、顔が無防備だったんだ。だから、右から投げて左に死角を作った。ちょっと危険な賭けだったけどね」


 仮面をつけ直したXはチラリと振り返った。アルタイルが追いかけてくる様子はない。


「……?」


 首を傾げながらも、通信機に話しかける。


「僕は佐東君達のところへ行く。佐東大空がフォーマルハウトということは、囚われているのは二人だね?」


『うん。ナビするから、八階に降りて』


「OK」


 Xは後ろを周囲を警戒しながら階段に向かった。

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