第139話 裏切り者は誰?

「やりやがった」


 舌打ちをしたベクルックスはスマホを耳に当てた。


『そろそろか?』


 電話に出たのはフォーマルハウトだった。


「Tがプロキオンを突破した。シリウスのところに向かっている。それと、防犯カメラも通信もあいつらが握っている」


『へぇ……実鈴が言ってたとおりだな。やるじゃねぇか。ガキの割には』


「お世辞はいい。待機しろ」


 ベクルックスが言い放つと、フォーマルハウトはフッと笑った。


『あいつらがどんな顔するのか、楽しみだな』


 一方的に電話を切られたベクルックスは終話音が鳴るスマホを憎らしげに睨みつけた。



「クソッ、アルタイルに負けず劣らずバケモンだな……」


 Aは激しく肩を上下させながらベガを睨みつけた。ゴム弾の嵐を縫って攻撃しているものの、ベガは肉弾戦も強かった。Aが出す攻撃は避けられるのに、ベガの攻撃は当たってくる。


『A……!』


『TがUのところに行ったよ!』


 Kの言葉を聞いてホッと息を吐く。


「……まあ、夏の大三角だもんな」


 口元を拭ったAは再び構えた。が、ベガは無防備に立っている。


「……そろそろいいんじゃないかしら」


「え?」


「時間稼ぎよ。まあ力加減するのも飽きてきたし、決めてもいいかしらね。デネブは手こずってるみたいだし」


 Aはベガが何を言っているのか理解できなかった。しかし、次の瞬間、ベガが目の前に迫っていた。


「――っ!」


 とっさに後ろに飛ぶも、ベガの拳がAの腹を狙う。


「がはっ!」


(速い……! 避けきれなかった……)


『A!』


 床に転がったAは壁に寄りかかりながら何とか立ち上がった。


「まだ立つの?」


 ベガが呆れたように息をつく。


「しぶといガキね」


 ベガが再び拳を握ったとき――


「待てよ」


「!?」


 Aはハッとベガの後ろにある曲がり角を目を向けた。


「フォーマルハウト? なぜいるの?」


 ベガがイライラと言った。


「正体を明かしてもいい頃かと思ってな。とりあえず引っ込んでてくれ」


 Aは険しい表情で曲がり角の先を見つめた。


(何だ? 声が……どこかで聞いたような……)


「アンタに指図されたくないわ」


「まあいいだろ? 同じ一等星なんだしよ」


『フォーマルハウト……』


 Yが小さく呟く。


 足音がして、曲がり角からフォーマルハウトが出てきた。その顔を見たAが驚愕する。


「嘘だろ……?」


 いや、予想はできていた。けれど、信じたくなかった。そんな現実を目の前に突きつけられ、Aは言葉が出なかった。


『え?』


『そんな……』


 KとYも絶句する。


「久しぶりだな、怪盗A」


 佐東大空――フォーマルハウトがニヤリと笑う。


「実鈴の……お兄さん……」


『な!?』


『えっ……』


 通信機で会話を聞いていたTとRも声を漏らす。


「あー、まあそうだな。一応な」


 適当に返したフォーマルハウトはAを鋭い目で見据えた。


「お前、俺がスパイだって気づいてただろ。どうして言わなかった?」


「っ……それは……」


 信じたくなかったから。そもそも、スパイがいることも信じたくなかった。


「――信じたくなかった、からか?」


 図星だ。黙り込むAをフォーマルハウトはあざ笑った。

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