第138話 怒り

「……あれ」


 防犯カメラを見ていたYはあることに気づいた。


「どうしたの? Y」


 KがチラリとYを見る。


「この回線、下の会社の防犯カメラにも繋がってるの。どうしてだろう……」


「わざわざ無関係な会社の回線を……?」


 Kは首を傾げた。どう考えても不自然だ。


「そこ、調べてみてくれる?」


「うん」


 頷いてキーボードを操作し始めたYが、すぐに「え!?」と声を上げる。


「どうしたの?」


 Yのパソコンを覗き込んだKもハッと目を見開いた。


 画面には、縛られて座り込む実鈴と、小学生くらいの女の子が映っていた。


「会社にいたんだ!」


 歯噛みしたKはすぐにヘッドセットをオンにした。


「皆! 佐東さん達は下の会社にいる!」


「八階の物置部屋だよ!」


『会社もグルだったってことか……!』


 Aが悔しそうな声で言う。



「バレたか」


 舌打ちをしたデネブは右手でウイルスに感染したパソコン、左手で別のパソコンを操作していた。


「ワクチンが効かない。御曹司の自作か……」


 右手で色々いじってみるも、ことごとくエラーになる。左手のパソコンには英文字や数字が羅列していた。


「厄介だな。ワクチンを作るのにどれぐらいかかるか……」


 再び舌打ちをしたデネブは右手でスマホを操作した。



 別室にいたベクルックスのスマホが震えた。


「……何だ?」


 スマホを耳に当て、ぶっきらぼうに返事をする。


『コンピューターウイルスに感染した』


「……は?」


 ベクルックスは思わず間抜けな声を出してしまった。


『御曹司の自作らしい。ワクチンが効かない。通信も防犯カメラも、奴らが復活させてる』


「……渡部か」


 ベクルックスは顔をしかめた。


(まさか、そこまで技術を上げてたとは……)


「とにかく、まずはワクチンを作って直せ。直り次第、またハッキングしろ」


『了解』


 電話が切れ、ベクルックスはスマホを下ろした。そしてタブレットを取り出して電源を入れる。画面には防犯カメラの映像が映っていた。さっきK達が復活させた別回線のカメラだ。


 六分割された画面には、それぞれ奮戦している怪盗達が映っていた。


「さっさと終わらせればいいものを……」


 ベクルックスが睨んでいるのはアルタイルとXの映像だ。


 アルタイルは最初から本気で飛ばさずに、しばらくやり合って相手の体力を削いでから一気に畳み掛けることが多い。今回もそうなのだろう。Xと闘い始めてからしばらく経っている。


(早く終わりそうなのは……というか、もう決着ついてるな、中江は)


 ベクルックスは別の映像に目を移した。Uが廊下に倒れていて、シリウスがその側に立っている。



「――っ! Uが!」


 防犯カメラの映像を見ていたYは、Uが倒れるのを見て悲鳴のような声を上げた。


『何やて!?』


 即座に反応したのはTだ。


「十一階にいる!」


『どけやァ!!』


 Kが叫ぶのとTがドスのきいた声を上げるのは同時だった。そしてドカッという鈍い音が聞こえる。



 Tは怒りを拳に乗せ、思いきりプロキオンの腹に叩き込んだ。


「がはっ!」


 堪らず吹き飛んだプロキオンが壁にぶつかる。Tは即座に走り出した。


「くそ……っ!」


 背中を打ち、すぐに動けないプロキオンは歯噛みした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る