第137話 逆転

「ハァ、ハァ……お前、誰なんや!」


 肩を上下させたTは目の前の男を睨みつけた。細身だが、ガタイのいいTに引けを取らない体力だ。


「ああ、言ってなかったか? 俺はプロキオン。冬の大三角だ」


 フッと笑みを浮かべたプロキオンは再びTに襲いかかった。


「っ!」


 回し蹴りを避けたTは右正拳突きを繰り出した。しかし、容易くかわされる。


(こいつ、Rと同じくらい強い! Uんところに行かなアカンのに……!)


 きっと、Uのところにも幹部が来ている。あまり強くないUを守らなければいけないのに。


「邪魔やァ!!」


 怒声を響かせながら思い切り蹴りを繰り出す。


「くっ!」


 その蹴りが右腕に当たったプロキオンは一瞬動きを止めた。


(今や!)


 Tは更に攻撃を仕掛けた。



(ど、どうしよう……)


 壁に寄りかかったUは目の前に立つシリウスを見上げた。小柄なUは俊敏力はあるものの、パワーはほとんどない。攻撃を避けることしかできないのだ。自分を殺す気はないとわかってはいるが、それでも追い詰められている。


(やっぱり詩一人じゃ……何もできないよ……)



「……Y。僕に考えがあるんだけど」


 突然Kがそう言い、Yは「え?」と素っ頓狂な声を上げた。そして、Kの話に目を丸くする。


「そんなことできるの?」


「前々から作ってはいたんだ。まだ不完全だけど、少しなら行けると思う。だから、防犯カメラの方に戻ってて欲しい」


「……わかった」


 頷いたYはキーボードを操作しながらKをチラリと見た。


「……信じてるよ」


 小さく呟き、パソコンに向き直った。



「所詮はガキか」


 デネブは右手をキーボードに乗せ、画面を見ていた。KとYがセキュリティに空けてくる穴を片手で塞いでいく。


 そして、ある穴を塞いだときだった。突然、ビーッ! と警告音が鳴り、画面に警告が表示された。


「何っ!? コンピューターウイルス!?」


 目を見張るデネブの前で、ウインドウが次々とシャットアウトしていく。


「ガキがっ!」


 歯噛みしたデネブはタブレットを取り出し、操作した。



「よし、引っかかった! 今のうちに!」


「うん!」


 コンピューターウイルスが発動したことを確認したKとYは素早くキーボードを操作した。ウイルスで弱くなったセキュリティを次々と突破していく。


「防犯カメラ繋がったよ!」


 叫んだYがハッと息を飲む。


「大変! 皆が……!」


「こっちはもう少し……よし!」


 通信を繋いだKは「皆!!」とヘッドセットに叫んだ。



「K!?」


 Aはハッとして通信機に手を当てた。


『まだ誰も倒れてないけどギリギリだ! すぐに佐東さん達の居場所を見つけるから、もう少し待ってて!』


 腹を狙って放たれたゴム弾を床を転がって避けたAはフッと笑みを浮かべた。


「……しくじったのね、デネブ」


 ベガが舌打ちをする。


「そうみたいだな」


 Aは言い終わるやいなやベガに飛びかかった。



「……なら、僕も頑張らないとね」


 右頬にアザをつくり、仮面にヒビが入ったXはホッと息をついた。


「何がおかしい?」


 無傷のアルタイルがXを睨む。


「流石僕の仲間だっていう、誇りかな」


 Xは仮面の奥のオッドアイに光を宿らせた。

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