第124話 最悪な再会

「……そういえばさ、秋の一等星ってフォーマルハウトしかないんだったよね」


 ふと、翔太が口を開く。


「ああ」


「フォーマルハウトが誰なのか、検討ついてる?」


「…………」


 少しの間の後、相賀は望遠鏡から目を離した。


「……わからない。いくら探しても出てこない。けど……皆じゃないって、信じたい」


 翔太も同意見だった。仲間を信じたいのは当然だ。でも。


「……けれど、信じ切っていたら、痛い目に合うかもしれないから。それだけ、忠告しておくよ」


(……僕が、そうだったからね)


 心の中で、呟く。


「……喉乾いたね。なにか飲み物買ってこようか?」


「いや、俺はいいよ。水筒持ってきてるし」


「そっか。じゃ、僕だけで行ってくるよ」


「ああ」


 ベンチから立ち上がった翔太は、丘の麓にある自動販売機に向かった。硬貨を入れ、落ちてきた缶ジュースを手に取る。


「――高山か?」


 唐突に声をかけられた。聞き覚えのない声。驚いて振り返ると、同い年くらいの男子三人が立っていた。


「な……何でここに?」


 思わず訊いてしまう。その男子達は、前の学校で翔太をいじめていた男子だった。


「へえ、元気そうじゃん? 今の学校じゃ、さぞかし楽しくやってるんだろうなぁ」


 男子達が詰め寄ってきて、数歩下がった翔太は自動販売機に背中をぶつけた。


 こんな奴ら、翔太の体術を使えば一発だろう。けれど、それはしたくなかった。それこそ、関係ない人を傷つけることになるから。


「お前、天体好きなのかよ? そんな目で見えんのか?」


「!」


 オッドアイを引き合いに出され、一瞬口を開く。けれど、ぐっと堪え、唇を結ぶ。


「なんか言ったらどうなんだよ!?」


「っ……」


 切ったとはいえ、まだ長い前髪を掴まれる。


「女みたいな髪しやがってよ。今の学校、そんな目受け入れてくれてるのかよ」


 翔太は握りしめた拳に更に力を入れた。強く握っていないと、拳を振るってしまいそうだったから。


 手を振り払って逃げることもできる。けれど、そうしたら、今度は丘の上にいる相賀に危害が及ぶかもしれない。こいつらは、月を見に来てるようだから。それなら、今自分が耐えればいいだけ。今までもずっと、そうしてきたんだから。今更、こんなことされた所で――


「翔太!!」


 ハッと顔を上げる。男子達も、声のした方を振り返った。


 数メートル離れた場所に――相賀が立っていた。大きく目を見開き、その場に突っ立っている。


「何してやがんだお前ら!!」


 猛然と走ってきた相賀は翔太の前髪をつかんでいる手を払い除け、男子達と翔太の間に立った。


「木戸君……」


「悪い翔太、気づくの遅れた」


「何だよお前?」


 男子達のリーダーらしき男子が相賀を睨む。


「翔太の友達だよ。なんか悪いか?」


「へえ……友達、いたんだ」


「いちゃ悪いのかよ?」


 相賀は少し煽るような口調だが、至って声色は冷静だ。しかし、言葉の端々には怒りがにじみ出ていた。相賀は、こうなると一番怖い。言葉の冷たさに、翔太の背筋に冷たいものが走った。

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