第123話 結果発表
「じゃあ、何で来たんだよ?」
翼の艶やかな視線に捉えられた伊月は思わず言葉に詰まった。
「……来なかったら、後で黒野と相楽がうるさいからだ」
「ああ、まあ、あの二人はね」
翼は苦笑した。
「けど、あの二人は、伊月と一緒に楽しみたいんだよ。二人だけじゃなくて、僕も、皆も同じ」
「……くだらない」
伊月が吐き捨てるが、翼には歓声で聞こえなかった。
「え?」
「なんでもない。捜査の合間に来ただけだ。もう戻る」
伊月はそれだけ言って歩いていった。
「あ、伊月!」
翼が叫ぶが、伊月は振り返らずに進んでいく。
「何だよ……」
ため息をついた翼は待機場所に戻った。
「……まさか、来るなんてな」
その一部始終を見ていた相賀は、隣にいた翔太に話しかけた。
「うん。来ないだろうと思ってたんだけど。……やっぱり、何か変わったよね」
「……そうだな」
相賀はどこか上の空で答えた。その直後、ピストルが鳴り、綱引きが始まった。
「優勝は……二年チーム!!」
「よっしゃぁぁぁ!!!」
「やったー!!!」
結果発表が始まり、優勝を告げられた二年チームは飛び跳ねて喜んだ。その輪の中には、拓真の姿もあった。
「皆ホンマに……ありがとうなァ」
拓真が目を少し潤ませながらお礼を言った。
「いいって!」
「当然のことをしただけだよ」
「泣くなって!」
男子が拓真の背中や肩をバンバン叩く。
「みんなでつかんだ優勝だ!」
式台に登った翼が優勝トロフィーを掲げてそう叫ぶ。グラウンドに拍手が鳴り響いた。
「打ち上げ、オレん家でやらんか?」
拓真がそう提案してきたのは、教室で余韻に浸っていたときだった。
「打ち上げ?」
翼が首を傾げる。
「オレん家、定食屋やっとるやろ? 今日は迷惑かけてもうたし、礼も兼ねてな」
「礼なんていいんだよ」
慧悟がニカッと笑って言う。
「それじゃ、オレが納得行かないんや。オレの体調管理が甘かったのは事実やしな」
「――いいんじゃね?」
口を拓いたのは竜一だった。
「ちょうど俺も、打ち上げどっかでしてぇなって思ってたし。行こうぜ」
「……まあ、拓真がいいなら俺はいいけど」
相賀が頷く。
「詩もやりたい!」
「いいんじゃね?」
詩乃と光弥も頷いた。
「じゃあ決まりやな。明日でええか? 休みやし」
「ああ」
「うん!」
一同の返事を聞いた拓真はホッとしたように笑った。
「明日の十二時、オレん家に集合してくれ」
「了解!」
教室に、笑い声が響いた。
その夜。相賀はあの丘に来ていた。担いできたバッグを地面におろし、チャックを開ける。中には望遠鏡や分解された三脚などが入っていた。それらを器用に組み立て、夜空を見上げる。漆黒の夜空には、煌々と輝く大きな満月が浮かんでいた。
「――木戸君、来てたんだね」
突然、東屋の方から声が聞こえ、驚いて振り返る。東屋に設置されているベンチに翔太が座っていた。
「翔太!?」
「まあ、来てるとは思ったけど。天体オタクの君のことだし」
「……もっと言い方ないのか?」
翔太を軽く睨んだ相賀は望遠鏡を覗き込んだ。翔太はその側で空を見上げている。
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