第125話 変わり者

「遅いな……」


 翔太が飲み物を買いに行ってから五分は経っている。自動販売機まではここから一分足らずで着くのに。望遠鏡から目を離した相賀は丘を下り始めた。と、


「なんか言ったらどうなんだよ!?」


 男の怒鳴り声が聞こえた。


(何だ、今の……まさか……!)


 ハッとした相賀は丘を駆け下りた。自動販売機の横に、複数の人影がある。


「翔太!!」


 ほとんど直感でそう叫んでいた。街灯が消えているため暗くて何も見えないが、間違いない。


 猛然と駆け寄ると、はっきり見えた。三人の男が翔太に詰め寄っていて、一人が翔太の前髪をつかんでいる。


 相賀は走った勢いのまま男達と翔太の間に飛び込んだ。前髪をつかんでいる手を払い除け、男達を睨みつける。


「木戸君……」


 翔太が気弱な声を出す。


「悪い翔太、気づくの遅れた」


 相賀は男を睨みつけながら答えた。その声は、自分でも驚くほど落ち着いていた。けれど、胸の中には抑えきれないような怒りが渦巻いていた。


「何だよお前?」


 男子達は同い年くらいだろうか。前に立っている体格のいい男子が相賀を品定めするような目で見る。


「翔太の友達だよ。なんか悪いか?」


「へえ……友達、いたんだ」


「いちゃ悪いのかよ?」


 こんなときなのに、相賀の頭は驚くほど冷静に回っていた。


「お前、高山がどんなやつか知ってんのかよ?」


「あ?」


 相賀が片眉を引き上げる。


「前の学校じゃ、暗いしそんな目だし、全員から避けられてたんだぜ。どうせ今の学校でもそうなんだろ? ま、お前みたいな変わり者はいるみたいだけどな」


 相賀は底冷えしたような瞳で、あざ笑う男子達を見据えた。


「変わり者、ねぇ……まあ、そうかもしれないけど」


 怪盗をやっている時点で、十分変わり者だろう。それでも。引けない。仲間を傷つけるやつは、誰であっても、許さない。


「だったら、皆変わり者だってことだな」


「あ?」


 今度は、男子達が首を傾げる番だった。


「前の学校が何だよ。んなの関係ない。今の学校じゃ、皆と仲良くやってるよ! 逆に、こんないいやつを避けるお前らのほうが気がしれないな」


「何だと!?」


 体格のいい男子が目をむく。


「お前らが翔太を避けてた理由は見た目だろうが。性格が問題で避けてたやついるのかよ? いないだろうな。ちゃんと関わったことないんだろうからな。俺らは違う。確かに、オッドアイには驚いたよ。けど、こいつはいいやつだ。見た目は関係ない。だからこそ、こっちじゃ受け入れられてるんだよ」


 相賀は一息で言った。知ってほしかった。今までずっと辛い思いをしてきた翔太を、見た目の一言で片付けてほしくなかった。

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