第58話 計画始動
「あ〜美味しかった!」
ウェイトレスがメインディッシュの皿を下げると、詩乃は満足そうに言った。
「よかった。渡部家専属のシェフだから、味は保証してたよ」
海音が微笑んで言う。
「次はデザートだね」
「ほんと、お前甘いもの好きだよな」
瑠奈にツッコんだ相賀は何気なく四階のホールを見下ろした。テーブルに座り料理を楽しむ人の中にいた人物の姿を目に止め、青ざめる。
(なんであいつが……!!)
それは大田伊月だった。空になったメインディッシュの皿を前に、実鈴がよく一緒にいる中年男性と話している。
(あれは……五島とかいう警部か。伊月までいるのか……。クソッ、今回も一筋縄じゃいかなそうだな……)
相賀が険しい目で四階を見下ろしていると、「木戸君?」と隣の席の翔太に声をかけられた。
「もうデザート来てるよ?」
「……ああ」
曖昧に頷くと、席に座り直した。
五島警部と談笑していた伊月はふと吹き抜けになっている五階を見上げた。その中に見覚えのある顔があり、薄い笑みを浮かべる。
(やっぱり全員揃ってるか……。好都合だ)
「……大田君? どうかしたか?」
「いえ、何でも」
伊月はにこやかな笑みを顔に貼り付け、五島警部に向き直った。
「じゃあ、最終確認だ」
相賀達は海音の部屋に集まっていた。
海音の部屋は瑠奈達の部屋より更に豪華で、キングサイズの天蓋付きベッドに小さめのキッチンまで付いている。
相賀は部屋の中央にある白い大理石のテーブルにミルキーウェイ号の船内図を広げた。
「ターゲットのブルーダイヤがあるのは地下二階の金庫室。明日の午前一時にここに集合してくれ。――上手く盗めたとして、実鈴に気づかれるのが一番面倒だ。警察も乗ってるし、ブルーダイヤが盗まれたとわかったら捜査に乗り出すだろうな」
「佐東さんは僕達のことに気づいてるみたいだし……僕達の部屋は最初に調べに来るだろうね」
海音は難しい顔をした。
「ああ。一応模造品は持ってきてるけど、鑑定士とかもいるだろうからバレるのも時間の問題だな」
「船のどこかに隠すしかないか……」
「そうだな。……この機会を逃したらもうあれは……」
相賀の呟きは海音にしか聞こえていなかった。
瑠奈達は仮眠を取るために七階の自分達の部屋に戻っていた。
「十二時半くらいに起きればいいかな?」
「せやな」
「あ、そういえば……」
階段を降りていた瑠奈はふと足を止めた。
「ここ海だけど、通信機繋がるの?」
すると、雪美は余裕の笑みを浮かべた。
「大丈夫。あれに使っている電波は特別製なの。海の上でも繋がるよ。まあ、これを作ったのは木戸君だけれど」
「相賀が?」
瑠奈は驚いて相賀を見た。
「……まあな」
相賀はどこか上の空で答えた。
「じゃあまた後でね」
「うん」
七階のスイートルームのエリアについた瑠奈達はマスターキーで自分達の部屋のドアを開け、入って行った。
部屋に入った相賀は電気も点けずに肘掛け椅子に座った。そしてテーブルに置いてあったノートパソコンを開き、キーボードを操作した。
一時間ほどして、相賀はようやく画面から目を離した。
「やっぱりか……」
肘掛け椅子の背に体を預け、天を仰ぐ。
パソコンの画面には招待者の名前が記されたリストが映っていて、その隣には大沢昴など数人のプロフィールが表示されていた――。
夜中の一時。怪盗達はコスチュームを着てKの部屋に集まっていた。
「僕達はここで指示を出すよ。皆はブルーダイヤをお願い」
「ああ、任せとき!」
Tが頷き、五人は部屋を出た。
『エレベーターには防犯カメラが付いてるから、階段を使って』
「ああ」
Kの指示に頷いたA達は十字路を右に曲がり、階段を駆け下りた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます