第57話 ディナーパーティー

 四階のメインホールで、五時からのディナーパーティーが始まった。


 二層吹き抜けになっているメインホールの天井からは豪華なクリスタルのシャンデリアが下がり、ドレスアップした何百人の人々がフルコースのディナーを楽しんでいる。


 ドレスアップした瑠奈達は五階のVIP席に来ていた。


「なんとか間に合った……」


「海音、俺達がこんなところにいていいのか?」


 相賀は息をつく海音に耳打ちした。


「アハハ、大丈夫だよ。僕の招待客ってことで来てるんだし、僕だけここにいるのも悪いしね」


 海音はスーツを着て伊達眼鏡を外していて、いつもより堂々としていた。


「それより、皆すごい似合ってるよ」


 海音は相賀の後ろにいる一同を見た。


 瑠奈は落ち着いた赤いドレスを着ていて、ミディアムヘアを綺麗にまとめ上げている。詩乃は薄い黄色の長袖のドレスを着て、ツインテールをほどいてハーフアップにしている。雪美は水色の半袖ドレスに白いレースのカーディガンを羽織り、ロングヘアの両サイドを細い三つ編みにして後ろでまとめている。


 相賀、拓真、海音、翔太はそれぞれスリーピースのスーツを着ていて、相賀は青、拓真は緑、海音は紺色、翔太は白のネクタイを締めていた。


「……スタイリストさんが色々見せてくれて……」


 瑠奈は恥ずかしそうに言った。詩乃と雪美も頬を少し染めている。


「ああ……まあ、似合ってるんじゃね?」


「……せやな」


 相賀と拓真はそっぽを向いて言った。海音はクスクスと笑い、翔太はスッと視線をそらした。


「じゃあ僕はお父様の挨拶に付き合うから、皆は席に座ってて」


 海音は踵を返し、人混みの中をすり抜けていった。


「……こういう時、海音がご令息だって気がするよな」


 相賀はポツリと呟いた。


 瑠奈達が席につくと、ウェイトレス達が前菜を運んできた。


「フルコースなんてなかなか食べる機会ないよね」


 翔太がふと言った。


「まあ高級店とか行かんとないやろなぁ」


「そうそう。だから楽しも!」


 詩乃が微笑んで言った。


 と、会場の電気が落ちた。


「え?」 「何?」


 招待客がざわつく。すると、吹き抜けの五階席の中央にスポットライトが当たった。


 そこには、五十代ぐらいの男性が立っていた。その両脇には、海音と唯音の姿もある。


『皆様、こんにちは。渡部財閥社長の渡部響希です』


 ステージに立った男性――響希が言うと、会場から大きな拍手が起きた。


「あ、じゃああの人が海音のお父さんなのか」


「貫禄あるね」


 相賀と詩乃が言う。


『今回はわたくしの誕生パーティーに来てくださってありがとうございます。一泊二日のミルキーウェイ号の旅、ぜひお楽しみください』


 響希達が頭を下げると、再び大きな拍手が沸き起こる。


 そして、会場の明かりがついた。


 招待客は再び歓談を始め、海音は瑠奈達のテーブルにやってきた。


「は〜緊張した……」


 海音は気が抜けたように空いていた席に座り込んだ。


「そういえば、桜音ちゃんは?」


 雪美が訊ねた。


 桜音は海音の妹だが、さっきの場にはいなかった。


「ああ……桜音は人前が無理だから、ああいう場には出ないんだ」


「そっか……」


 雪美は静かに頷いた。そして


「まだ人が苦手なんだ……」


 ぼそりと呟く。


「……まあ、桜音が渡部財閥を継ぐことはないだろうけど……」


 海音は言葉を濁しながら運ばれてきたスープをすすった。

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