第37話 計画

「……なんか、偉そうだよな」


「大田? そうだよな」


 放課後の教室。慧悟と竜一が話していた。


「探偵なのは別にいいんだけどよ……。だからってあれだけの態度とられると迷惑だよなあ」


 慧悟は頭の後ろに両手をまわしながらぼやいた。


「あんな奴見たことねえよ。今まで会った奴の中で一番偉そうだった」


「俺だってそうだぞ、慧悟。つか、まずあんなに自信満々の奴がおかしいんだよ」


 教室の隅で日直の仕事をしていた実鈴は顎に手を当てた。


(調べる価値、ありそうね)



「で? 上手くいってるの? あの計画」


 某ビルの一室。ベガはトカレフを弄びながらデスクに腰掛け、パソコンを操作しているデネブに訊ねた。


「……ああ」


 少しの間の後、デネブは小さく頷いた。


 短気で待つのが嫌いなベガだが、デネブには慣れていた。


「ま、それならいいわね。ところで、アルタイルはどこ行ったのよ?」


「……さあ。鍛練でもしてるんじゃないのか」


 デネブは興味なさげに言った。


 その時、部屋のドアが開いた。ベガが、弄んでいたトカレフを即座に構える。


 入ってきたのはアルタイルだった。


「アンタ、どこ行ってたのよ?」


 トカレフを下ろしたベガが訊ねる。


「野暮用だ。デネブ、計画の状況は?」


「…………順調」


 同じ質問に二回も答えるのは億劫なのかいつもより空白が長かったが、デネブは小さく頷いた。


「用心しろ。この計画は一つミスがあれば失敗するんだからな」


「……わかっている」


 デネブはいつもと同じ、抑揚のない声だったが、ベガにはわかった。苛立っている。


「それじゃあ、よろしく頼む」


 アルタイルは再び部屋を出ていった。


「結構乱暴だけど、こういうとこは慎重よね、アイツ。鈍感だけど」


「……迷惑だ」


 デネブはエンターキーを強めに打ちながら呟いた。



 新学期が始まって一週間が経った。伊月はまだクラスに馴染めず、浮いていた。しかし、当の本人は気にしていないようだ。休み時間になるとスマホをいじっている。


「……なんか壁がある感じなんだよな」


 相賀はそう言った。


「僕より孤立感あるよね」


 と翔太。すかさず相賀が「やめろ」と鋭く言う。


 怪盗達はアジトに集まっていた。


「次のターゲットはアレキサンドライト。ある富豪が博物館で自身のコレクションを展示してるんだ。そこに展示されてるアレキサンドライトはオークションで競り落としたんだが、それが盗品だったわけだ。けどま、そのオークションは正規のものだし、富豪も悪じゃない。泥棒が盗んで、それをオークションに出しただけだ」


 瑠奈達の正面に下がったスクリーンには暗緑色の宝石が映っている。


「アレキサンドライトって何?」


 ふと、詩乃が訊ねる。


「宝石の一種で、蛍光灯の下では暗緑色、ろうそくの火の下では赤く光るんだよ」


 海音が答えた。


「へー、色が変わるんだ~」


「……ただ、一つ問題がある」


 相賀が重々しく言った。


「何? また実鈴でも来たの?」


 瑠奈がからかうように言った。


「……いや、近いけど、違う」


 相賀は厳しい顔をしながらパソコンを操作した。スクリーンに映ったのは男だった。


「……こら一筋縄ではいかんな……」


 拓真が呟く。スクリーンに映ったのは大田伊月だった。



 伊月は薄暗い部屋にいた。手元の資料をめくりながらパソコンを操作する。


「……っと。さーて、面白くなってきたな」


 ニヤリと笑うと、パソコンを閉じて立ち上がった。


 テーブルに置かれた資料には、相賀や瑠奈など、クラスメートの情報と顔写真が載っていた。

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