第38話 新たな探偵
「はあ? 新入生との交流? どうしてそんなのにオレが行かなきゃならない」
瑠奈達の始業式の翌日、入学式が行われた。更にその一週間後、伊月はそう言った。
「いい加減にしてくれよ、大田」
伊月に話していた翼はイライラと言った。
「みんな行くんだ。なんでオレが、じゃないんだよ」
クラスメートは、皆伊月の身勝手さにイライラしていた。偉そうな態度をとる上に自己中。協調性がないのだ。
「まあまあ翼」
そこにやってきたのは慧悟だ。
「多分伊月は年下が苦手なんだよ。ひとまずオレ達で行こうぜ」
「いや、でも……」
「いいからいいから」
慧悟は渋る翼を強引に引きずって行った。
「……年下が苦手? ハッ、ふざけんなよ」
残された伊月は鼻で笑った。
「大田伊月の事を少し調べた。探偵として活躍しだしたのはここ一ヶ月。急に活動を始めたらしいから、あまり情報はないな。俺から言えるのはそんなとこだ」
怪盗達は再びアジトに集まっていた。相賀から説明を受けた海音が険しい顔をする。
「やっぱり怪しいよね……」
「怪しさの塊やろ」
拓真も言う。
「伊月の力がどれくらいなのかわからない。今回は用心しないとな」
相賀は厳しい顔で言った。
「それで、このアレキサンドライトは博物館から運び出される時を狙うことにした。思ったより警備が厳しくてな、展示されている間に盗むのは難しそうなんだ。だから警備が一番手薄になる、運び出される直前を狙う」
「なるほどね」
海音が頷く。
「けど、それ一ヶ月後なんだ。だから別のターゲットを決めておいた」
相賀はそう言って立ち上がり、プロジェクターの電源を入れた。
怪盗Aと怪盗Uはビルの屋上にいた。入り口に付いている防犯カメラの死角になる所に座り、Aがタブレットを見ている。
「……そうだ。もう少し行けば階段がある。そこから二つ降りて警備員を集めてくれ」
『OK!』
怪盗Rの返事が聞こえた一分後、怪盗Tの声が聞こえてきた。
『ごっつおかしいで。警備員が一人もおらんのや』
「え? どうして……」
怪盗Kと怪盗Yは首を傾げながらパソコンを操作した。
「警備員が、いない? そんな事は……」
KとYが操作しているパソコンには、ビルに設置してある防犯カメラのすべての映像が映っている。
それには、廊下を歩く警備員の姿が時折映り込む。
「……! そうか!」
瞬きもせずにパソコンの画面を見つめていたKは顔色を変えた。
「全員逃げろ! これは罠だ!!」
「え?」
急に怒鳴られたRとTは思わず動きを止めた。と、近くの部屋のドアが開き、警備員が何人も廊下に飛び出してきた。
「まずい!」
慌てて振り返るが、そこにも十人ほどの警備員が立っている。
「挟まれたか……」
Tが表情を歪める。
「初めましてだな、怪盗R、怪盗T」
そして警備員達の間から出てきたのは――大田伊月だ。
「なっ……!?」
『どうして……!?』
Rが息を呑み、Yも思わず声を出す。
『全員落ち着け』
Aの冷静な声が聞こえる。
『正体を悟らせるな』
Rは零れそうになった言葉を飲み込み、薄く笑みを浮かべてみせた。
「あら、誰かしら? 随分若いようだけれど。実鈴の知り合いかしら?」
「実鈴? ……ああ、この街の探偵か。知り合いといえば知り合いだがな。名乗っておいてやる。オレの名前は大田伊月。佐東実鈴に次ぐ探偵だ」
転校してきたときと同じように、気取った声で挨拶をする。
「今日はひとまず、貴様らの腕試しといこうか」
フッと伊月が笑みを浮かべた瞬間――警備員達が一斉に襲いかかってきた。
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