第79話 文化祭の準備
「神田、そこの絵の具取って」
「あ、これ? はい」
「ありがとう」
視聴覚室で、柚葉、坂巻愛、翔太、雪美、海音が段ボールに絵を描いていた。翔太が段ボールを真っ黒に塗りつぶし、他の四人がその上に赤い飛沫や奇妙な仮面等を描いていく。
「うわぁ、にしても皆上手いなぁ〜」
そう言いながらやってきたのは明歩だ。
「私画力が幼稚園レベルだから羨ましいよ」
「そんなことないよ。明歩ちゃんだって衣装作り頑張ってるでしょ?」
雪美がやんわりと言い、視聴覚室の隅を振り返った。長机の上に大量の布類が積まれ、光弥が一体のトルソーにフード付きの黒マントを着せている。実鈴はミシンの前に座り、瑠奈と相賀はボタンやリボンを縫い付けている。
「まあ、ね。私がやれることはあれくらいしかなかったし。それでも十七人いるわけだからもっと人手が欲しいけどね」
「またまたぁ。光弥君がやるって言うから明歩ちゃんもやったんでしょ!?」
柚葉が茶化すと、明歩の頬がピンクに染まった。
「大声で言わないでよ。そんなことないって」
苦笑いした明歩は戻っていった。
「絶対デキてるよなあいつら」
「そりゃそうだ」
永佑、翼、香澄らと共に迷路の設計図を作っていた慧悟と竜一はニヤニヤと笑った。
「お待たせー!」
元気な声に翔太達が顔を上げると、段ボールを抱えた拓真と筆や絵の具を抱えた詩乃が視聴覚室に入ってきた。
「追加の段ボール貰ってきたで」
「絵の具も美術室から借りてきたよ!」
「ありがとう詩乃ちゃん。白がそろそろ無くなりそうだったんだ」
愛は白い絵の具のチューブを手に取り、パレットに絞り出した。
「そういえば……」
シャーペンを持った慧悟が視聴覚室を見回した。
「伊月はどこ行ったんだよ? あいつ衣装作りの班だろ?」
「ん? ……確かに、この時間が始まってから見てないな」
永佑も顔を上げる。
「サボりかよ?」
「あいつ、いつもそうだよな〜。こういうことに全然参加しねぇじゃん。拓真の応援のときもさぁ……」
「……」
竜一と慧悟が話す中、翔太は目を伏せた。
「おーい、そろそろ授業終わるから片付けろー」
永佑の声が部屋に響いた。
「あ、いた! おい伊月!」
竜一と学校を出た慧悟は、先を進む伊月に気づいて声をかけた。しかし、伊月はそれを無視して歩いていく。
「待てってば!」
竜一は走って伊月に追いつき、肩を掴んだ。
「お前、今日の文化祭の準備サボってただろ!」
「……だから何だ?」
足を止めた伊月は冷たく突き放した。
「何だじゃねぇよ。参加しろって。クラス皆の出し物なんだからよ」
慧悟が言うと、伊月は息をついた。
「オレは参加しない。する必要もメリットもない」
「んなことねぇだろ!」
慧悟が声を荒らげる。
「貴様らで勝手にやってればいい。オレは関係ない」
抑揚のない声で言い放った伊月は竜一の手を払い除け、歩き出した。
「チッ、何だよあいつ……」
慧悟が思わず舌打ちをした。
昇降口の柱の陰からそれを見ていた実鈴は険しい表情で伊月の後ろ姿を見つめていた――。
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