第80話 文化祭の準備②

 それから一ヶ月。迷路の準備は着々と進み、組み立てが始まっていた。絵が描かれた段ボールを、永佑達が作った設計図通りにボンドやガムテープで組み立てていく。しかし、その作業をしているのは七人しかいなかった。


「……ったく! なんでこんな時間ねぇのに部活あんだよ!」


 部活無所属の慧悟は苛立ったように癖っ毛をかき回した。


 無所属の瑠奈、相賀、実鈴、翔太、サッカー部だが今日から休みの光弥、サッカー部顧問の永佑がそれぞれ作業しながら苦笑いする。


「そんなカリカリするな、黒野」


 組み立ての指示を出していた永佑が慧悟を振り返った。


「文化祭で発表する部活もあるんだからな」


「いや文化部はわかりますけど、運動部があるのは理解できないですよ!」


 いつにも増してくしゃくしゃの髪で尋ねてくる慧悟を、永佑は「まあまあ」となだめた。


「今日で部活終わるから。明日から皆で作業できるからさ」


「皆じゃないですよ。一人サボり魔がいるんですから」


 伊月は、これまで一度も準備に参加したことがない。


「大田はなぁ……」


 永佑も渋い顔をしている。


 ファーを黒い布に縫いつけていた実鈴は一瞬手を止め、永祐をチラリと見た。


 その時、部活終了を告げるチャイムが鳴った。それと同時にテニス部の翼、バドミントン部の竜一、バレー部の柚葉が視聴覚室に飛び込んできた。


「やっと来たか!」


「おい慧悟、その髪どうしたんだ?」


「テメーのせいだ!」


 早速じゃれ合う慧悟と竜一をよそに、再び組み立て作業が始まった。


 その後も、美術部の海音、雪美、愛、野球部の拓真、吹奏楽部の詩乃、明歩、香澄が続々と部屋に入ってきて、部屋は一気に賑わった。しかし、すぐに下校を知らせるチャイムが鳴り、作業を中断せざるを得なくなった。


「もう終わんないよ……どうしよ」


 片付けをしていた明歩がふとぼやくと、隣の光弥が振り返った。


「家に持って帰ってやればいいだろ。俺もそうしてるし」


「そうなんだけど、部活もまだあるからあまり進まないんだよ」


「ああそうか……吹部はまだあるからな」


「文化祭で吹くからね」


 明歩はため息をつきながら頷いた。



 次の日。


「おい! そこのガムテープ取ってくれ!」


「そこは分かれ道だよ!」


「誰か設計図持ってない!?」


 視聴覚室中に声が飛び交う。組み立て作業も大詰めになっていた。


 迷路の邪魔にならないところでは、明歩達が衣装を仕上げていた。衣装作りも大詰めで、ほとんど完成している。


「よし! あとはこのボタンを付ければ……!」


 明歩が最後のボタンを縫い付けていく。そして玉結びをして糸を切った。


「できた……」


 明歩が息をつく。


「よっしゃ!」


「やったな!」


「はぁ……間に合った……」


 光弥と相賀がガッツポーズをとり、瑠奈と実鈴も息をつく。


「お、できたか」


 それに気づいた永佑が歩み寄ってきた。


「なんとか間に合ったな。じゃあ明日から組み立て作業の手伝い頼むぞ。今日は終わりそうにないからな」


「はい!」


 四人は笑顔で返事をした。

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