第78話 組織の動き

「……翔太が狙われているのは、両親が組織のスパイだったからだ」


「スパイ?」


「ああ。翔太に両親がいないのは知ってるだろ? 翔太の弟共々奴らに殺されたんだ。でも翔太は運良く生き残った。だから狙われてるんだよ。なんとか生きてるけどな。あと、俺らが狙われている理由はわからないんだ」


「え?」


 実鈴はきょとんとした。


「どうしてわからないの?」


「最初は怪盗をやってるからだと思ってたんだ。けど、何か違うような気がして……俺に固執してるみたいな感じがしてるんだ。それに、翔太と違って殺そうとしてこないしな」


「……確かに、それは変ね。自分達の邪魔をしてるのに……」


 実鈴は顎に手を当てて考え込んだ。


「多分あいつらは俺らを利用するか何かするんだと思う。だからこそ、人質を取って俺らを呼び出しているんだ」


 相賀の仮説を聞いた実鈴は顔を上げた。


「わかった。こっちでも調べてみるわ。話してくれてありがとう」


 実鈴は自分の机からバッグを取り、教室を出ていった。


「……いいの? 話しちゃって」


 実鈴と相賀のやり取りを見ていた瑠奈が尋ねた。


「ああ。もう俺達だけじゃ手に負えなくなってきてるからな……」


 相賀は窓の外を見ながら呟くように言った。



「次のターゲットはアクアマリン、『空の涙スカイ・ティアー』。二十年ぐらい前に盗まれて行方知れずになっていたんだが、奴らの下部組織が持っていることがわかった」


 瑠奈達はアジトに集まっていた。


「下部組織か……」


 瑠奈がソファに体を預けながら呟く。


「あいつらは、裏社会の組織をほとんど配下にしてるからな……。と言っても、今回の組織は末端の末端。配下ではあるが、ほとんど接点はないな」


 相賀は肩をすくめた。


「……海音君、どうしたの?」


 朝井雪美が、考え込んでいる渡部海音に尋ねた。


「いや……大田君、本名は大沢って言ってたでしょ? なんか引っかかって……」


「そか? 確かに似とるけど、関係ないんとちゃうか?」


 林拓真が体を起こして言う。


「……いや、今考えても結論は出ないだろ。後にしよう。それで実行日だけど、まだ先でいいんだ。文化祭終わったあとだな」


「えっ、それでいいの?」


 瑠奈が身を乗り出した。


「一ヶ月ちょっとあるけど」


「ああ。特に取引に出される予定もなさそうだし、いつでもいいんだ。それに文化祭の用意があるし、今入れたら大変だろ」


 瑠奈は相賀の気遣いに思わず微笑んだ。


「……ありがとう」


 一同も笑みを浮かべる。


「一応実鈴にも伝えてあるから大丈夫だ。じゃあ、今日は解散しよう」



「計画は十月の上旬。文化祭が終わったあとに決行する。フォーマルハウトには知らせるな」


 ベクルックスはパソコンを操作していたデネブに命令した。


「どうして?」


「多分あいつは今回の計画に反対してくる。でも、必ず進める必要がある計画だ。邪魔してくる奴は排除しておいた方がいい」


「……わかった」


 頷いたデネブはパソコンのキーボードを素早く打ち始めた。

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