第207話 思ってること
「っ……」
Kに庇われて倒れ込んだYは、すぐに体を起こした。ぶつけたこめかみが痛むが、気にせずに自分の上に倒れているKを揺さぶる。
「海音君! 海音君!!」
スピカの銃は、真っ直ぐにKの側頭部に向いていた。あの距離で弾が当たっていたら……
涙目になりながらKの頭を確認するが、怪我はしていないようだ。
「……どうして……?」
「雪美様」
名前を呼ばれ、ハッと振り返る。そこには、運転席から二人を見つめる宇野の姿があった。宇野も、怪我はしていないようだ。
「宇野さん!」
「海音様は恐らく、銃声で気を失われただけだと思いますので、ご安心ください」
「どうして、私達……」
確かに銃は撃たれた。それなのに、誰も怪我をしていないのは、どういうことなのだろう。
宇野は黙って視線を動かした。Yが視線の先を追うと――車の外で、五島警部や警官に取り押さえられるスピカとレグルスの姿があった。
「警部……!?」
「どうして……!?」
わけがわからないのは、ベクルックスも同じだった。左耳にかけた通信機に左手を当てながら、苛立ったように叫ぶ。
「この辺一帯は、デネブの電波妨害がかかっているはずだ。なぜ警察に通報できた!?」
「お前、これの電波妨害してねえだろ」
相賀は自分の耳にかかっている通信機をコツコツと叩いた。
「前にこれも通信妨害してきたことあったんだから、できないわけないだろ。K達がなんで学校から離れたのかわかるか?」
ベクルックスはハッとしてフェンスの外を見た。確かに、渡部家の車は見当たらない。
「電波妨害を避けるためだよ。そしてそこから、今までの会話を全部警部に飛ばしてたんだ。 ……まあ、ギリギリだったけどな」
「チッ」
舌打ちをしたベクルックスは再び相賀に目を向け、銃を下ろした。その瞳には、もう怒りはない。
「……もういい。別に、本気で殺る気じゃなかったしな」
「そういう発言だよ」
相賀はベクルックスを真っ直ぐに見つめた。今まで怖くて、自分の弟だなんて信じられなくて、真っ直ぐ見ることはできなかった。が、もう自分の正体はばらされている。ある意味、スッキリしていた。
「話してみろよ。お前の思ってること、全部」
「はあ?」
「俺の事喋っておいて、自分はだんまりかよ。そりゃねえだろ」
「……言ってる意味がわからねえ。オレはベクルックスだ。ボスの命令に従うだけ」
「それは自分にかけてる暗示だ。お前が本当に思ってることを言えよ」
ベクルックスの瞳が、揺れる。
「……わからねえ。何もわからねえんだよ……!」
聞いた事のない、悲痛な声が響いた。
「……貴様みたいにお人好しなら、揺れない信念が持てたのかもな」
皮肉なのか本心なのかはわからない。けれど相賀には、嘘を言っているようには見えなかった。
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