第208話 思わぬ協力者

「お前は確かに、生まれた時から情なんてない世界で育った。だからこのクラスに来て、皆が優しくて、戸惑ってたんだろ。今まで接してきた人間とは、全然違かったから」


 ベクルックスは、ただ相賀を見ている。


「人の情を知ったお前は、銃を撃つのが怖くなった。お前の心にも情が芽生えたから。人の優しさを知ったから。それで今は、そんな自分を許せなくて、受け入れられなくて苦しんでる。――そうだろ?」


「……それを肯定したとして、貴様はどうするつもりだ?」


「別に、どうもしない。今後どうするかはお前次第だからな。――伊月」


 相賀はそういうと同時に、煙玉を勢いよくばらまいた。煙玉が爆発し、煙が辺りを覆う。


「しまった!」


 二メートルほど前にいた相賀の姿も見えない。


「はあっ!」


 その隙に、相賀はフォーマルハウトに飛びかかった。


「ぐっ!」


 煙で遮られ、反応が遅れたフォーマルハウトの腕に相賀の蹴りが叩き込まれる。


「ありがとう、A」


 緩んだフォーマルハウトの手から逃れたXが立ち上がる。そして、アルタイルに向かって走り出した。Aもプロキオンに向かう。


 煙が晴れた時――X、A、Tは幹部達の手から逃れていた。Xはアルタイルに攻撃をしかけていて、Tはシリウスの前に立ち塞がっている。


「チッ」


 アルタイルは、左腕一本でXの蹴りをさばいた。


「マジかよっ」


 Xの顔に焦りが見える。まさか、片腕だけで応戦してくるとは思わなかったのだ。


「それなら!」


 すると、Aが飛び込んできた。Rを捕らえている右腕に、全力の右ストレートを食らわせる。


「うっ……!」


 その一瞬、アルタイルの力が緩む。Rはその隙を逃さなかった。


「はあっ!」


 つかまれていた腕を引き抜き、振り返りざまに蹴りを叩き込んだ。


「っ!」


 蹴られた腹を押さえたアルタイルはおもむろに立ち上がった。そしてRを睨みつける。


 Rはその迫力に一瞬気圧された。しかし、すぐに構えを取る。


 右肩が痛い。多分、右腕はあまり使えないだろう。アルタイルも、それはわかっているはず。そこを狙ってくるに違いない。


(……だからって、負けるつもりはないけどね!)


「はあっ!」


 Rは一気に間合いを詰め、回し蹴りを繰り出した。それを受け止めたアルタイルが左ストレートを放つ。


 上半身を傾けて避けたRは、続けざまに来た蹴りをもしゃがんでかわし、そのまま左上段突きを繰り出した――が。


「動くな!!」


 鋭い声が屋上に轟いた。


 ハッと振り返ると――ずっと気配を消していたベテルギウスが永佑の背後に立っていた。その側頭部には拳銃が向けられている。


「先生!!」


「きゃあああ!」


 怪盗達に気を取られていた生徒達が悲鳴をあげる。


「そんな……!」


 実鈴は絶句した。まだ体力は回復していないとはいえ、自分がついていながらみすみす人質に取られてしまうなんて――


「……はあっ!」


「っ!?」


 突然、ベテルギウスの拳銃が吹き飛んだ。


「――!?」


 その場にいた全員が目を見張る。


 飛び蹴りで拳銃を飛ばしたのは――香澄だった。

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