第159話 現実と選択
翌日。翔太は学校に来なかった。
「木戸、何か知らないか?」
永佑に訊かれた相賀はキョトンとした。
「……いえ、何も」
「今日は連絡ないんだよ。寝坊するとは思えないんだけどな」
永佑はそう言って教室を出ていった。
「……伊月」
相賀は自席にいた伊月に声をかけた。伊月が気だるそうに顔を上げる。
「お前、昨日翔太に何か言ったか?」
「……どうしてそう思う?」
「翔太の様子が変な時は、大抵お前が絡んでるからな。……ベクルックス」
相賀は少し声を落とした。伊月はフッと笑った。
「確かに言った。だが、高山に現実を教えただけだ」
「――!」
相賀はハッと顔色を変えた。
「だから……!」
「まああいつは、貴様らを信じてるようだからな。問題はないだろ」
「大アリだ」
相賀はさらに声のトーンを落とした。
「お前、それが翔太にとって一番辛いことだとわかってるだろ」
「さあ?」
とぼける伊月に、相賀は思わず舌打ちをした。
「いい加減に――」
相賀が声を荒らげかけたとき、授業の始まりを告げるチャイムが鳴った。
口をつぐんだ相賀は伊月を睨みつけながら自分の席に戻っていった。
(……もちろん、知っている。だからあえて言った)
伊月は頬杖をつき、そっとほくそ笑んだ。
(さあ、どうする? 高山)
生きて周りの人間を危険に巻き込むか、消えて周りの人間を守るか。
それは、齢十三の少年が背負うにはあまりにも残酷過ぎる選択だった。
「…………」
学校をサボった翔太は墓地に来ていた。自分の家族が眠っている墓に線香を添え、ロケットを開いてアンタレスを流す。
死者から答えが返ってくるわけもない。それは痛いほどわかっている。それでも、ここに来ずにはいられなかった。
(……母さん達なら多分、まだこっちに来るなって言うよね)
自分のことより、翔太と風斗の事ばかり考えていた人達だ。
でも、それでも。
ロケットを握る手に力がこもり、オッドアイが揺れる。
「……会いたいよ……」
絞り出した声も震える。
絶対叶わない夢だとわかっている。それでも、そう願わずにはいられなかった。
うつむく翔太に、雪が舞い落ちてきた。
「雪……」
気づいた翔太は顔を上げた。いつの間にか空には雲が立ち込めていて、小さな雪が降っている。
「あと一週間、か……」
十二月十八日。家族の二周忌まで、あと一週間。
「……雪、降ってきたな」
掃除の時間、窓の外を見た相賀が言った。
「わあ、初雪だ!」
風に舞う雪を見た香澄や明歩達がはしゃぐ。しかし、相賀は暗い顔をしていた。
なぜかずっと胸がざわざわしている。何か大変なことが起こりそうな、そんな気が――
「……嫌な予感がする」
雪雲が立ち込める空を険しい表情で見上げながら、相賀は持っていたほうきを握る手に力を込めた。
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