第82話 偽りの自分
「前半のグループは木戸、高山、相楽、林、中江、長谷、辻、坂巻だ。後半はその他な。コスチュームも決めてあるんだよな?」
文化祭前日。最終確認をしていた永佑は尋ねながら明歩達を見た。
「はい」
「自分の役割わからない人いるか? ああ、大田は脅かす役な。サボってたから聞いてないだろ」
永佑は流れるように付け足した。
伊月は聞いているのか聞いていないのか、窓の外を眺めている。
「で、明日は七時半に教室に集合して、前半グループは着替えて準備。後半グループはその手伝いだ。文化祭の始まりは八時半。昼休憩でグループ交代だ。一般の方も来るから、失礼のないようにしろよ。何かわからないとこあるか?」
一通り説明した永佑が尋ねるが、一同は首を振った。
「よし。じゃあ今日は解散!」
永佑が言い、一同は帰る支度を始めた。
「ベクルックス様、明日はどうするのですか?」
会議室にいたアルタイルは隣に座っているベクルックスに尋ねた。
「……聞いてどうする?」
「いえ。あんなふざけた行事に参加するのかと思いまして……」
「……」
やはり、アルタイルはただの脳筋というわけではない。たまに攻めた発言をしてくる。
「行かないつもりだったが……それはそれでクラスメート達が後からうるさいだろうからな。行きはするつもりだ」
「そうですか。では、計画のほうは……」
「そろそろ怪盗共の計画も固まる頃だろう。フォーマルハウトから連絡が来たら決める」
「わかりました」
翌日。七時半に教室に集合した一同は段取りの最終確認をし、前半グループの相賀達は別室で着替えをした。
「お前、ほんとにそれで行くつもりか?」
土や血糊がついたボロボロのシャツを着た相賀は、翔太を見て目を丸くした。
ドラキュラの仮装をした翔太は長い前髪を青い左目にかけていて、赤い右目が際立っていた。
「ドラキュラっぽいだろ?」
「そうだけど……いいのか?」
「もう隠さないことにしたんだよ。青よりは赤のほうが怖いかなと思ってさ」
しばらく翔太を見つめていた相賀はフッと微笑んだ。
「……まあ、いいと思うぞ」
翔太も笑みを浮かべた。
「そういえば前から気になってたんだけどさ」
着替えを終えて教室に向かう途中、狼男に扮した竜一が口を開いた。
「高山って、そのキザっぽい性格と転校してきた頃の大人しい性格、どっちが本当なんだよ? 最近混在してるだろ?」
「あーそうだね……」
翔太は少し考え込んだ。
「……キザな方かな。まあ小学校の頃はずっと大人しかったからどっちが素なのか自分でもよくわからないけど、楽に振る舞えるのはこっちかな」
翔太の表情がフッと陰る。
「……良かったじゃん」
予想外の返しに、翔太は思わず顔を上げた。笑みをたたえた竜一と目が合う。
「ここに来て、元の性格に戻れたってことだろ? 自分を偽られたままっていうのは、俺らだって嫌だからな」
「……ありがとう」
翔太もそっと微笑む。その横で、ミイラ男の仮装をした相賀はうつむいていた。
(……偽った自分、か)
それは俺のことかもしれないな――
楽しそうに話す二人の横で、相賀は自虐的な笑みを浮かべた。
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