第146話 変える

「もう限界だろう。そろそろ諦めたらどうだ? お前じゃ、私には勝てない」


「くっ……」


 Tは歯噛みしながら顎を拭った。


(デネブがワクチンを完成させる前に行かなアカンのに……!)


 明らかに、シリウスは手加減をしている。けれど、疲弊しきっているTはそれを捌くので精一杯だ。


 Uはまだ、目を覚まさない。


 その時、通信機からザザッ……とノイズが走った。


『ダメだ保たな……R……を……るから……』


「K!」


 ハッとしたTが叫ぶが、何も聞こえなくなってしまった。


「やっとワクチンができたのか」


 シリウスはため息をついた。


「あのデネブが手こずるなんてな。お前たちの指示役、結構やるじゃないか」


「……何のつもりや」


 突然、褒めてくるなんて。


「そんなに深い意味はない。単純に、技術に感服しただけだ。惜しいな、怪盗なんかやっていなければ、組織に引き入れても良かったんだが」


 一気に、Tに流れる血が逆流する。


「Kがお前らの仲間になるわけないやろ!!」


「そう怒るな。もちろん本気じゃない。ただそれに匹敵する才能があるということだ」


 シリウスは表情一つ変えず、激昂するTに言い放った。


「お前は何だ? 何か人並み外れた才能を持っているか? ないだろう。お前はただ、自分がやりたいと思ったことをやっているだけだ。仲間を助けるためだけに自分を顧みずにやってくる。私に言わせれば、そんなのは愚かなことでしかない。私に勝つなら、私より優れた点がないとな」


 ああ、やっぱり、組織の連中は。


(……結局、そういう考えなんやな)


 仲間なんてくだらない。ベクルックスと同じ考えだ。


「……やっぱり、お前らのことは許さん」


 フッと息を吐いて構えを取る。


「まだやるか」


 シリウスは呆れたような顔をした。


「体力は残っていないだろう」


「だからって、やらん理由にはならんやろ」


 はっきり言い切ったその時。


「はあっ!」


 突然、シリウスの背後の曲がり角から飛び出してきたRがシリウスに蹴りを入れた。


「っ!?」


「R!?」


 着地したRはそのままTの横に並んだ。


「Uは?」


「後ろや」


 Rがチラリと後ろを見ると、まだ気絶しているUが倒れていた。


「R、誰と戦っとったんや?」


「ベテルギウスよ」


「……チッ。ベテルギウスのやつ、悪い癖が出たな」


 シリウスは軽く舌打ちをした。


「さあ、第二ラウンドよ」


 Rが構えを取る。


「……本当に諦めが悪いな」


 シリウスが小さく息を吐く。


「そこまでして足掻いても、結果は変わらないだろう」


「違う。の。醜くても足掻いて、結果を変える。だから私達は諦めない。絶対に。それに、皆と約束したから」


「約束?」


 シリウスが眉をひそめる。


「絶対に実鈴達を助けて、皆で無事に帰ること。それが、私達がした約束。その約束を違えるつもりはない。だから、勝たせてもらうわ!」


 RとTは同時にシリウスに向かって走り出した。

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