第128話 打ち上げ②

「じゃあ次は……翔太、どうだ?」


「え?」


 リゾットを食べていた翔太は突然名指しされ、むせた。


「……何で僕?」


 少し涙目になって尋ねると、慧悟はニヤリと笑った。


「だってお前、歌上手いじゃねぇか」


「そういえば去年凄かったよね〜」


 香澄が微笑む。


「いや……あれは練習したからだし……持ち曲なんてないから……」


 しどろもどろになった翔太が言い訳をしていると、


「ごめん! 遅くなった!」


 襖が開き、実鈴が顔を出した。


「おっ、やっと来たか!」


「犯人が無駄に逃げ足早くて、苦労したのよ」


 大きく息をついた実鈴は空いていた座布団に座った。水希がすぐさまジュースを持ってくる。


「ありがとうございます。――それで、何してたの?」


「カラオケしてたんだよ。佐東も歌うか?」


 竜一が答えた。


「遠慮しとくわ。まだ息切れしてるし、歌そこまで歌えないし」

 

「何だよ皆もう歌わないのかよ」


 不満そうに口をとがらせた慧悟は二曲目を選択して歌い始めた。


 結局、そこからは慧悟と竜一の独壇場だった。


「――あいつ、やっぱり来なかったな」


 竜一がふとそう言ったのは、テーブルに乗っている料理がほとんどなくなった頃だった。


「あいつ?」


 隣に座っていた海音が訊く。


「伊月だよ。まあ、来ないだろうと思ってはいたけどな」


 竜一はため息をついてジュースが入ったコップを傾けた。


「なんかあいつ、最近違和感あるんだよなぁ。文化祭も顔出してきたし、体育祭にもチラッと来たんだろ? 翼」


「あ、うん」


「転校したてのあいつなら、考えられねぇだろ。どっか偉そうで、人を見下してるみたいな態度取ってたのにな」


「……」


 怪盗一同と実鈴は険しい表情で竜一の話を聞いていた。



 打ち上げがお開きになったのは午後四時だった。


「随分長居しちゃったね」


 翼が謝ると、拓真は「構へんよ」と首を振った。


「オレが言い出したことやしな。お詫びしたかったし」


「それはいいんだって」


 翼が苦笑する。


「まあ、それは抜きにしても楽しかったな」


 慧悟が言った。


「最後は歌ってただけだけどな」


「それでも楽しかったし、皆盛り上がってたからいいだろ」


 竜一が口を挟んだ。じゃれ合いを始める二人を無視して、拓真が翼に向き直る。


「安藤。オレの代わりに走ってくれてありがとうなァ」


 突然改まって礼を言われた翼は戸惑った。礼はいいと受け流そうとも思ったが、


「……ううん。拓真が何事もなくてよかったよ」


 微笑んで頷いた。



 その頃。ベクルックスは廃ビルの一室で電話をしていた。


「……わかった。ぬかるなよ、フォーマルハウト」


 ベクルックスが釘を刺すと、フォーマルハウトはフッと息を漏らした。


『誰がぬかるんだよ、こんな簡単なこと。ちゃんと役に立ってみせるさ。じゃあな』


 一方的に電話を切られたベクルックスは舌打ちをしてスマホを耳から離した。


「……何やってるんだ、オレは」


 だれにともなく呟いた。

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