第127話 打ち上げ
「じゃあ、体育祭の優勝を祝って――」
「かんぱーい!」
慧悟、竜一の音頭で全員がジュースが入ったコップを掲げる。一同は宴会にも使えるような広い座敷にいた。
「おい竜! 一番美味しいとこ取ってくなよ!」
「いいじゃねぇか!」
二人がじゃれ合いを始めるが、一同はスルーして料理を食べ始めた。
「わ、このお寿司美味しい!」
「イタリアンもやってるんだな」
寿司を頬張る詩乃の横で、翼がテーブルを見回す。寿司や天ぷらなどの和食はもちろん、ピザやリゾットなどのイタリアン料理も所狭しと並んでいる。
「オカンがイタリアン好きでな。オヤジがよく作るんや」
「和食だけだと、流石に盛り上がりに欠けるかなって思ってね」
ジュースのおかわりを注ぎに来た拓真の姉・
「まだまだおかわりあるから、いっぱい食べてね」
ジュースを注ぎ終えた水希が厨房に戻っていく。
「あの人、拓真のお姉さん?」
翼が天ぷらをつつきながら訊いた。
「ああ」
「関西弁じゃないんだね」
海音が言った。
「せやな。オヤジが関西人なんやけど、オカンは標準語やから。それぞれ移ったて感じやな」
自分の皿に盛ったリゾットを頬張りながら拓真が頷く。
「まあ、姉貴も、たまに関西弁出るときあるけどな」
「家族の半分が関西弁じゃな」
翼が苦笑いする。
テーブルの端の方では、明歩、愛、柚葉が何やら話していた。
「それで、あっきー、あれできたの?」
「う、うん、できたけど……今見せないとだめ?」
「見せて!」
「後でにしてよー」
愛と柚葉が明歩に詰め寄っている。明歩が持っているのは紫色の大学ノートだ。
「お前、こんな時も持ってきてるのか」
ジュースを飲んでいた光弥が呆れたように言った。
「持ってくるつもりはなかったんだけど……二人に見せてってせがまれちゃって……」
明歩が頬を染めながら大学ノートをバッグにしまう。
「見せてよー!」
「恥ずかしいからあとにして!」
「で、次は何の話を書いたんだ?」
光弥が愛と柚葉をスルーして尋ねる。
「……怪盗の話」
瑠奈の地獄耳が、明歩の言葉に反応する。
「怪盗って……RとAか?」
「もあるんだけど……元々好きだから」
「そういえばあっきー、アニメでも怪盗キャラ推しだっけ」
「うん」
「……」
瑠奈はフッと息をつき、ジュースを飲んだ。
(……そんな、憧れられるようなものじゃないんだけどね)
「よっしゃー! カラオケ行くぞー!」
座敷の隅に置いてあったカラオケセットのマイクを持ち上げた慧悟が叫んだ。一同が「おーっ!」と盛り上がる。
「んじゃあオレから行くぞ!」
慧悟が勢いよく流行りの男性シンガーの曲を歌い出す。お世辞にもうまいとは言えないが、まあ、盛り上げ方はうまい。
「次誰行くか!?」
「……じゃあ、私」
意外にも、手を上げたのは明歩だった。
「あっきーいくの!?」
「そういや、歌好きだったな」
少し微笑んだ明歩は慧悟からマイクを受け取り、曲を選択した。アニソンだ。
「ーーー――……♪」
透き通った歌声に、一同が目を見張る。
「……歌上手かったんだ、長谷さん」
相賀がモニターを眺めながら言った。黄色い音程バーが並んでいる。
点数は九十六点だった。
「すげぇ!」
慧悟が声を上げるが、明歩は首を振った。
「ううん。この曲、前に九十八取ったことあるから。今日調子悪いし」
「明歩ちゃん厳しいね」
柚葉が苦笑いする。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます