第154話 体調不良

「……あー……」


 翌朝。体温計の表示を見た翔太はため息を付きながらベッドに仰向けに倒れた。


(やっぱりダメだったか……)


 体がダルい。頭が痛い。体温計は三十八度を指している。


 十中八九、昨日濡れたのが原因だろう。それに加え、寝不足。ふと、血まみれのA達の姿がフラッシュバックして、翔太はギュッと目を瞑った。


(なんでまた……あんな夢……)


 Aが目の前で撃たれるのを見たから。しかも、自分を庇って。


『この世から消えるか、組織の一員として働くか』


 伊月に突きつけられた選択肢を思い出す。


(どっちも嫌だ。きっと、木戸君達が悲しむから――)


 その時、ある考えが頭に浮かんだ。それは、思いつかないほうが良かった、残酷な考えだった。


(……『僕』は、どうしたいんだ?)


 相賀達関係なく、自分がどうしたいのか。


「――消えたい」


 思わず、言葉が口をついて出てきた。


 この間のように、あの悪夢のように、誰かを失ってしまうのなら――


「――っ、だめだ……」


 熱を出しているからか、ネガティブな考えしか出てこない。


 学校に休む連絡だけ入れ、翔太は布団を被った。


 どれくらい眠っただろうか。翔太はフッと目を覚ました。枕元の時計を見て、息をつく。


「3時か……」


 流石に寝すぎた。だが、おかげでだるさと寒気はマシになっている。寝不足の影響の頭痛もほぼなくなっていた。


「なんか飲み物あったかな……」


 少しふらつく足で立ち上がり、小さなキッチンに向かう。冷蔵庫を開けると、ペットボトルの水がぽつんと入っていた。


「……そういえば、最近何も作ってないな……」


 翔太が住んでいるこのアパートは、翔太の両親の友人が経営している。孤児になってしまった翔太を、無償でアパートに住まわせてくれているのだ。最近、調子の悪い翔太を気づかい、自宅に招いて夕食を一緒に食べていた。その影響で、買い物にも行っていない。


「……お腹空いたな……」


 冷蔵庫には、特になにもない。両親の友人からもらった梅干しくらいだ。


 仕方ない。翔太はペットボトルのキャップを開け、冷えた水を喉に流し込んだ。そしてベッドに入ろうとしたとき――チャイムが鳴った。


「え?」


 驚いてドアを振り返る。


「……水野さん、今日仕事のはずなのに」


 昨日、シャワーを浴びて保健室で横になっていた自分を迎えに来てくれたとき、言っていた。だから、自分が風邪をひいたと言っていない。


「……えっ」


 ドアののぞき窓から外を見た翔太は目を見張った。そしてすぐに鍵を開ける。チャイムを鳴らしたのは――相賀だった。


「なんで……?」


「お前が風邪ひいたって永佑先生に聞いてな。俺がクラス代表で見舞いに来たんだ。どうせ、ろくなもの食べられてないんだろ?」


 そう言う相賀の手には膨らんだエコバッグが下げられていた。

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