第155話 翔太と相賀
「……うん」
「まあその様子なら大丈夫そうだな。キッチン、借りていいか?」
「あ、うん」
翔太は体を引いて相賀を玄関に入れた。
「……と言っても、用具そこまでないんだけど」
「まあなんとかなるだろ。母さんの趣味で、鍋で米炊いたりしてたからな」
相賀は玄関からリビングへ続く廊下の途中にあるキッチンでエコバッグの中身を取り出し始めた。
「とりあえず寝てろよ。できたら声かけるから」
そう言いながらエコバッグから取り出した経口補水液のペットボトルを差し出す。
「……うん。ありがとう」
うなずいた翔太はペットボトルを受け取り、ベッドに向かった。腰掛けてペットボトルの蓋を開け、一口飲む。
(……ごめんね、木戸君)
心の中で呟く。口に出したら怒られてしまいそうだ。見舞いというのは建前で、昨日悪夢を見たことに気づいているのだろう。流石に自分達が殺された夢だとは知らないだろうが。
やがて、米の炊けるいい匂いがしてきた。
「翔太、食べられそうか?」
相賀がトレーを持ってやって来る。
「うん。食欲はあるから」
翔太が頷くと、相賀は部屋の中央にあるミニテーブルにトレーを置いた。
「とりあえず薬も置いとくな。あと冷蔵庫に消化しやすいもの作って入れておいたから。ちゃんと食べろよ」
トレーには卵入りのおかゆ、バナナのヨーグルトかけが乗っていた。
「おかゆもまだ残ってるから、足りなかったら食べてな」
「……ほんと、君ってお節介だよね」
「あ?」
翔太の独り言に、相賀が振り返る。
「別に、ここまでしてくれる必要ないだろ。見舞いに来る必要だって……」
「……まあ確かに、見舞いに来たのは俺達の勝手だけどな。お前が心配で来たんだよ。昨日、また悪夢見たんだろ?」
図星を指された翔太はうつむいた。「やっぱりな」と相賀が息をつく。
「あの雨の中飛び出して行くくらいなんだから、相当だったんだろ。それに、これもあるんだろ?」
相賀は自分の左前腕部に触れた。
「……あんま慰めにはならないかもしれないけど、気にしなくていい。俺がケガしたのはお前のせいじゃない。俺が勝手に飛び込んだんだ」
「そうだよ……っ」
翔太は思わず口を開いていた。
「あのとき、君が飛び込んでこなければケガしなくて――」
「翔太」
翔太の悲痛な声を遮り、相賀が口を開いた。その声は、今まで聞いたことのないような冷ややかな声だった。
(……この声……)
……いや、聞いたことがある。あれは――
「お前、自分が何言ってるかわかってるか?」
「……っ」
「それは自分が死ねば良かったって言ってるのと同じだぞ。あのとき、お前を狙ってたのはフォーマルハウトだ。容赦なくお前の頭を狙っていた。……お前が死ぬのと比べたら、こんなのケガですらねえよ」
左上腕部に乗せた右手に力を込めた相賀は立ち上がった。大股で歩き、キッチンに置いていたエコバッグを取り、靴を履く。
「……早く治せよ」
それだけ言って部屋を出ていく。
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