第177話 素直に
「……? ねえ、Y。ベクルックスは何を――」
パソコンの操作に集中していたKはベクルックスの言葉が聞き取れず、Yを振り返って口をつぐんだ。Yがヘッドホンを外し、どこかに電話していたからだ。
(ベクルックスと相賀……どういう関係なんだ……)
「……ねえ、皆」
Kはマイクに向かって話しかけた。
「え、話してたの?」
Rは素っ頓狂な声を上げながら飛びかかってきた黒服を回し蹴りで吹き飛ばした。
「……ごめん。こっちに夢中で聞いてなかった」
『オレもや』
『詩も』
別行動をしているTとUもそう言う。
『……わかった。ありがとう』
(何なんだ、一体……)
Kは険しい表情でヘッドホンに手を当てた。
「……うん。じゃあ、お願い」
電話を切ったYが息をつく。
「いつでもいいって」
「わかった」
ヘッドホンを付け直したKは瞳に鋭い光を宿した。
「――行くよ」
「……ええ。わかったわ」
路地で電話をしていた実鈴はスマホをジャケットのポケットに入れ、後ろを振り返った。そこには、五島警部と、防護服を着て盾を持った機動隊が何人もいる。
「準備ができたそうです」
「ああ、わかった」
頷いた五島警部が警官に指示を出し始める。
実鈴は路地の外を険しい目で見つめた。その視線の先には、真っ暗な五階建ての廃ビルがあった――
「……伊月?」
Aは怪訝そうな顔をして尋ねた。
自分と翔太は、わかる。けれど、どうしてベクルックスまでそれに含まれているのか。
しかし、ベクルックスはすぐに冷たい表情に戻った。
「それで、どうする気だ?」
銃口を、意識が朦朧としている翔太の頭に向ける。
「貴様がその気になれば、高山を殺らないことも検討するが」
「……何度も言っている。俺は怪盗Aで、木戸相賀だ。お前らには屈しない」
翔太の頭を隠すようにしゃがみ込んだAは光の宿った瞳でベクルックスを見上げた。
「翔太は殺らせない。……お前こそ、もっと素直になったらどうなんだ」
Aの言葉に、ベクルックスの顔が引きつる。
「何を……っ」
「そのままの意味だ。お前は――」
Aが言いかけたとき。バンッ! と音を立てて、ベクルックスの背後の扉が開いた。驚いて振り返ったベクルックスが反射的に飛び退る。
「大沢伊月! 覚悟しなさい!」
大人びていて、それでいて幼さも残る女の声。
部屋になだれ込んできたのは、防護服を着て盾を構えた機動隊と五島警部、そしてそれを先導する実鈴だった。
「な!?」
ベクルックスが目を見開く。
「動くな!」
そう叫んだのは、実鈴でもベクルックスでもない。Aだった。実鈴がピタリと足を止め、後ろの機動隊も慌てて止まる。
「なっ……怪盗Aに、太田君!?」
五島警部が目を見開く。実鈴からは「裏社会の組織がいる」としか聞いていなかったのに、なぜ、義賊のような動きをしている怪盗と、知り合いの少年探偵がいるのか。五島警部は訳がわからなかった。
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