TARGET2 名探偵登場!
第5話 形見のペンダント
星の丘の中心部はビル群が建ち並び、スーツを着た男女が道を忙しく行き交っていた。
その内の高層ビルの一室。扇形に並べられた長机に黒スーツの男達がズラリと座っている。正面の壁にはプロジェクターで映像が投映されている。そこに映っているのは――サングラスを掛けて素顔がわからない怪盗Rと怪盗Aだった。
壁の前にはハの字型に置かれたソファと長テーブルがあり、そこに座っていたあの大柄な男は立ち上がった。
「最近、R、Aなる怪盗が我々の計画を邪魔してきている。計画の邪魔をする者は全て排除せよとベクルックス様のご命令だ。しかし、この怪盗、特にAは生け捕りにせよと仰せつかっている」
大柄な男の発言に、黒スーツの男達はどよめいた。
「それ、なんでだ?」
突然、男の声がしてどよめきは収まった。その代わり、緊迫した雰囲気が急速に広がっていく。
大柄な男は発言した男をジロリと睨んだ。部屋が薄暗いため顔はよく見えないが、体格から見て大学生くらいだ。しかし、声は堂々としていて淀みがない。
「……てめぇ、自分が組織三幹部だと知っての発言か?」
「ああ、わかってるよ。だがな、俺は幹部クラスよりひとつ下にいるんだ。近いうちにそっちに行くさ、アルタイル様」
飄々とした声で言い放つ。
大柄な男――アルタイルは発言した男を睨んでいたが、やがてフッと笑った。
「この自分に簡単に口を利くとはな。面白い。なんでかは自分も知らん。だがベクルックス様のご命令は絶対だ。てめぇが来るの、楽しみにしてるぞ」
「ああ」
男はニンマリとした。
「てめぇら! いいか! これはベクルックス様のご命令だ! 守らなかった者は即刻成敗する!」
「ハッ!!」
威勢よく返事をした男達が続々と部屋を出ていく。
「いいの? あんな雑魚達に任せて」
ソファに座っていた銀髪の女が、拳銃を
「もちろん、あんな奴らにRとAが捕らえられると思ってない。とりあえず言っただけだ。デネブ、ベクルックス様があいつらを気にする理由、つかめたか?」
アルタイルはずっとパソコンを操作していた小柄な男――デネブに尋ねた。
「……出てこない」
「やはりそうか。まあいい。ベガ、そろそろお前の出番だ」
「わかってるわよ」
銀髪の女――ベガはフッと笑みを浮かべた。
八月の中旬。星の丘の西側にある寺には喪服を着た人々が集まっていた。その中には
「朝井さんって双子だったんだ」
学ランを着た
「そうだよ。言ってなかったっけ」
「いや、聞いたことないな」
相賀と話しているのは瑠奈の親友の
「あれ、雪美そんなの持ってたっけ?」
「ああ、これ春姉さんがくれたの。姉さんが事故に遭う前に家族でハワイ旅行に行ったんだけど、私だけ風邪ひいて行けなくて……そしたら姉さんがお土産で買ってきてくれたの。だから姉さんの形見だと思ってるんだ」
「おーい、朝井!」
明るい声に振り返ると、
「あ、みんな来てくれたんだ」
雪美が嬉しそうに笑う。
「来ないわけないよ。春美ちゃんも幼馴染みみたいなものだからね」
「ありがとう。……あれ? 実鈴さんは?」
ふと、雪美がクラスメートを見渡して言った。
「ああ、実鈴なら事件で来れないって連絡きたぞ。雪美に申し訳ないって言ってたな」
黒野慧悟が言うと、雪美は「そっか……」と残念そうにした。
「今日の話で思ったけど、私達が怪盗をやっている限り、実鈴さんは敵ってことよね」
その日の夕方、アジトに来ていた瑠奈は言った。
「そうなるな。クラスメートと敵なんて居心地悪くてしょうがないけどな。それに、俺はともかく、瑠奈は佐東さんと幼稚園から一緒なんだろ? 尚更だな」
レモンティーをグラスに注いでいた相賀はうなずいた。
「で、今回のターゲットはまだ決めていない。何しろ数が多いからな。動くのは来週以降になる」
「了解」
春美の法事から一週間後の真夜中。自室で眠っていた雪美は物音で目を覚ました。隣の部屋から音がする。
(そっちは物置部屋のはずなのに……)
両親の寝室は物音がする部屋とは反対側にある。と、ドアの開く音がした。慌てて布団に潜り込む。
少しして、誰かが部屋に入ってきた。雪美が布団の間からそっと顔を出すと、帽子を目深に被ってマスクをかけた若い男が雪美の机を物色していた。
「……!」
雪美が動けずにいると、男は机に置いてあった小さな木箱を手に取り、開いた。窓から射し込んだ月光に照らされ、キラリと何かが光る。それは春美の形見のペンダントだった。
(あっ……!)
男が木箱の蓋を閉じ、肩に掛けていたバッグに入れようとした時、雪美は「ダメ!」と飛び出していた。男にしがみつき、木箱を取り返そうとする。
「離せ!」
男は力任せに雪美を振り払った。
吹っ飛んだ雪美が壁にぶつかり、男は木箱をバッグに入れた。
その時、「雪美!?」と雪美の母親が部屋に飛び込んできた。男は舌打ちし、窓ガラスを割って出ていった。
「雪美、大丈夫!?」
頭をぶつけて朦朧とする雪美の目に映ったのは、駆け寄ってくる母親と夜風に揺れるカーテンだった。
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