第6話 現れた探偵
翌日。瑠奈が学校に行く用意をしていると、スマホが鳴った。リュックを背負った瑠奈が机からスマホを取り上げて見ると、雪美からLINEが来ていた。『ゴメン。今日は休む』と書かれている。
「え?」
瑠奈は目を見開いた。いつもなら、理由をつけるはずだ。しかし、今回は要件だけだ。
『どうしたの?』
返信したが、既読がつかない。
「瑠奈ー? 学校遅れるよ!」
一階から母親の呼ぶ声がする。
「はーい」
瑠奈はLINEを気にしつつも一階に向かった。
「え、朝井さんが休み?」
登校中、雪美のことを聞いた相賀は素っ頓狂な声を上げた。
「うん……何かあったのかなぁ……」
「まあ、珍しいけどさ……。人の心配ばっかしてると、自分が潰れるぞ」
相賀はそう言って歩いていった。その言葉が将来現実になるとは知らず……。
「えっと、今日は朝井と佐東が休むって連絡が入ってる。じゃあ、ホームルーム終了」
教卓の前に立った担任の
「雪美、どうしたんだろうね」
席に座っていた瑠奈の元に詩乃がやってきた。
「うん……」
「しかも実鈴ちゃんも休みでしょ? 何か関係あるんじゃない?」
「……」
「雪美の家に行ってみない?」
詩乃がそう提案したのは、帰りのホームルームが終わった直後だった。
「でも、迷惑じゃない?」
「行ってみるだけだよ。無理そうだったら帰ればいいし。相賀君達も行く?」
拓真、海音と話していた相賀は急に呼ばれ「へ?」と間の抜けた声とともに振り返った。
「相賀達って雪美の家に行ったことあるの?」
雪美の家に向かっていた瑠奈はふと、後ろを歩いていた相賀達に聞いた。
「俺はないな」
「俺もや」
「僕はあるよ」
ただ一人頷いたのは海音だった。
「お前行ったことあんのか?」
拓真が驚いて聞く。
「小五の時に休んだ雪美さんにプリント届けたことが……ゲホッ、ゲホッ……」
突然、海音が咳き込み始めた。途端に拓真と相賀の表情が凍りつく。
「大丈夫? 海音君。……どうしたの?」
海音の背中をさすっていた詩乃は二人の様子がおかしいことに気づいた。
「……発作だ」
「え?」
瑠奈がきょとんとすると同時に拓真が瑠奈を押しのけるようにして海音に駆け寄った。
「海音! お前吸入器持っとるか!?」
半分怒鳴るように聞くが、咳き込む海音は答えられない。
「バッグ見るで!」
拓真は海音が落としたバッグを拾い、中に手を突っ込んだ。
「海音、しっかりしろ!」
「これや!」
拓真はバッグから吸入器を引っ張り出すと、海音の口に押し込んだ。吸入器の中の薬を吸い込んだ海音の咳が落ち着く。
「ハァ……ありがとう」
拓真はニッと笑った。
「ところで海音。お前帰ったほうがええんとちゃう? また発作起こすと大変やし。送ったるさかい」
「……そうだね。みんな迷惑かけてゴメンね」
座り込んだ海音が謝ると、三人は首を振った。
「大丈夫だよ。海音君が無事で良かった」
詩乃が言う。微笑んだ海音は拓真と帰っていった。
「じゃ、行こっか」
詩乃が明るい声で言い、三人は再び雪美の家に向かった。
三人が雪美の家に着くと、門の所にパトカーが停まっていた。
「え、パトカー……?」
詩乃が困惑したように呟く。すると、家から警察が出てきた。
「ん……? ここの家に何か用かい?」
若い男性の警官だった。ニコニコと屈託のない笑みを浮かべて聞いてくる。
「えっと、私達ここの家の雪美に会いに来たんですけど……」
「ああ……」
瑠奈がおずおずと言うと、警官の表情が曇った。
「会えるとは思うけど、今娘さんは放心状態なんだよ」
「放心状態……?」
相賀が警官の言葉を反芻する。
「実は、この家に泥棒が入ってね。娘さん、大事なものを盗まれたらしいんだよ」
「え……」
「と、とりあえず入ってもいいですか?」
瑠奈が聞くと、「ああ、いいよ」と警官は門を出て道を開けた。
雪美は、パジャマのままで自室のベッドに腰掛けていた。その顔色は悪く、髪もボサボサだ。すると、ノックの音がした。
「……どうぞ」
ドアの隙間から雪美の母親の顔が覗いた。
「雪美、お友達が来たけど、どうする?」
「……着替えるから待ってもらってて」
「わかったわ」
リビングに通された三人が待っていると、着替えて身支度を整えた雪美がリビングに入ってきた。しかし、顔色の悪さは隠しきれていなかった。
「雪美……? 大丈夫?」
雪美の顔色が悪いことに気づいた瑠奈が尋ねる。
「うん……ゴメンね、今日休んじゃって……」
「警察いたけど、何かあったの?」
「ち、ちょっと詩乃!」
なんの躊躇いもなく尋ねる詩乃を、瑠奈が慌てて抑える。
「大丈夫だよ、瑠奈。……それが、昨日……いや、今日って言ったほうがいいかな。うちに泥棒が入って……姉さんのペンダント、盗まれたの」
「え!?」
相賀が思わず声を上げ、瑠奈と詩乃も目を見開く。
「それで休んじゃったんだ。ゴメンね」
「だから警察がいたのか……」
相賀が納得したように頷いた。
「雪美」
再び、雪美の母親が顔を出した。
「またお友達が来たけど……」
「え?」
「こんにちは、朝井さん」
警察とともに現れたのは――黒いパンツスーツを着た佐東実鈴だった。
「実鈴ちゃん!?」
「実鈴さん……」
詩乃と雪美が驚いたような声を上げる。
「朝井さん、私はこの事件を解決しに来たの。事件の事、聞かせてくれない?」
実鈴はそう言って微笑んだが、その目の奥には鋭い光が宿っていた。
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