第63話 信用
「……君が、何で狙われてるのかは知らないけど」
数秒の沈黙の後、翔太が口を開いた。
「仲間を助けたいって思う気持ち、無駄にする気か?」
「は!?」
「二人を助けたいって思ってるのは君だけじゃないんだよ。だから行こうとしてる。危険でも」
「無駄にするつもりはない。俺が絶対助けてくるから」
「まだわからないか!」
急に翔太が怒鳴った。相賀が驚いてのけぞり、瑠奈達も肩を跳ね上げる。
「少し頭冷やせ! 死ぬ気か!?」
「死なねーよ! お前じゃないんだからな!」
「っ……」
相賀に痛いところを突かれ、翔太は口ごもった。
「そんな言い方……」
ずっと黙っていた実鈴が割って入る。しかし、相賀は実鈴を睨みつけて黙らせた。
「お前が一番わかってるはずだろ!? 奴らがどういう組織で、どういう人間の集まりなのかを! そんな奴らのアジトに全員で行ってみろ! お前は殺されて、俺達は何をされるかわからないだろ!?」
「いい加減にして!!」
瑠奈が叫んだ。
「……こうして争ってる間にも、二人がどんな思いしてるか……何されてるかわからない。怖いの。相賀の言うことも当たってる。けど……皆で行ったほうが二人を救出できる可能性が高くなる。それはわかってるでしょ?」
「わかってるよ! でも!」
「前にも言われたじゃない! もっと……私達を、信じて」
「っ……」
相賀は両手をギュッと握ってうつむいた。
「……俺だって、怖いんだよ。また誰かを失うのが……。俺が体を張ってみんなを守れるなら、そうする。今回もそのつもり……だった」
小さい声で話した相賀は顔を上げた。決意を固めた表情をした四人が視界に映る。
「全く……頑固な奴らだな」
前髪をかきあげた相賀は顔をくしゃくしゃにして微笑んだ。
「……わかった。行くぞ!」
「うん!」
「ああ!」
四人が頷く。
「実鈴、場所は後で連絡する。応援頼む」
「わかったわ」
実鈴が力強く頷くと、五人は残っていたモーターボートに乗り込んだ。
運転席に座った相賀がスロットルレバーを倒すとスクリューが勢いよく水をかきまわし、モーターボートは急発進してデッキから海に飛び出していった。
(……気をつけて)
実鈴は開いたデッキに立ち、小さくなっていくモーターボートを見つめていた。
「実鈴?」
実鈴が部屋に戻ると、隣の部屋から大空が顔を出した。
「兄さん……」
「もう夜中だぞ……。なにか事件でもあったのか?」
大空は心配そうな顔をしている。しかし、今話してしまうと海音と雪美を助けられなくなってしまうかもしれない。
「……何でもないよ。ちょっとデッキにいただけ」
「……そうか」
不服そうに頷いた大空は部屋に引っ込み、実鈴も部屋に入った。電気も点けずにスマホを操作して耳に当てる。
「――あ、もしもし、五島警部ですか? 実は……」
実鈴は電話をしながら窓にかかっていたカーテンを開いた。煌々と輝く満月が、ゆらゆらと揺れる海面に写っている。
「……はい、そうです。お願いします」
実鈴は電話を切り、フゥ……と息をついた。
(死ぬんじゃないわよ……貴方達)
(まさか……)
実鈴の部屋と自分の部屋を隔てる壁に寄りかかっていた大空は険しい表情でスマホを取り出した。
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