第64話 翔太の心変わり

「翔太」


 モーターボートを運転していた相賀は助手席の翔太に話しかけた。


「……さっきは悪かったな。気に障るようなこと言って」


「いいよ。気にしてないから。――死ぬのはやめようと思ってるし」


「え?」


 相賀が振り返ると、翔太は何も言わずに前を見るよう示した。


「もちろん、僕が生きている限り奴らに狙われることは変わらないけど、君達と会って、楽しかったんだ。初めて友達ができたし」


「初めてって……」


「あの日、クラスメートのクリスマスパーティーに呼ばれてたって言ったろ? けど、それはクラスメート全員強制参加でさ。渋々行ったんだよ。いじめはなくなってたけど、僕とちゃんと仲良くしてくれる人もいなかった。だから、友達ができたのはこの中学に来てからなんだよ。幼稚園でも煙たがられてたし」


「……そうなのか」


 相賀は曖昧に頷くしかなかった。


「僕が死んでも、悲しむ人なんてもうこの世にいないって自暴自棄になってたのかもしれない。けど、君達は僕を仲間と思ってくれてるし、クラスメートも仲良くしてくれる。だから今死ぬのはやめようと思うんだ」


「……それがいいと思うぞ」


 相賀は頷き、スロットルレバーを更に倒した。モーターボートはスピードを上げ、真っ暗な海面を突き進んでいった。



「……ゆ……さん……みさ……雪美さん!」


 何度も名前を呼ばれ、気絶していた雪美は目を覚ました。


「うっ……」


 雪美が首筋を押さえながら起き上がると、側でしゃがんでいた海音がホッとした笑みを浮かべた。


「ここは……」


「多分、奴らのアジトだと思う。けど、僕達をここに連れてきて何をする気なのか……」


 雪美は閉じ込められている部屋を見回した。


 自分達のアジトと同じようにコンクリートがむき出しになった部屋で、少し埃っぽい。広さは三畳ほどで、家具などは特に何もない。窓もなく、入り口のドアに小さな鉄格子が付いている程度だ。廊下の灯りがそこから漏れている。


「スマホも取られてるみたいだし――」


 海音が言いかけたその時、鍵が開く音がした。


「!!」


 海音がサッと立ち上がり、雪美を庇うように腕を広げる。


 ドアが開き、入ってきたのは――大田伊月だった。


「え……大田、君……?」


 二人が目を見開く。


「……まだ気づかないか。簡単な話だ。オレはただの転校生じゃない。組織の一員なんだよ」


「え……っ!?」


 フッと笑みを浮かべた伊月は部屋を出ていった。



「着いたぞ!」


 相賀は指定された小島の桟橋の側にボートを停めた。


 そしてボートと桟橋をロープで繋ぎ、サングラスをジャケットのポケットから取り出す。


「今回のターゲットは渡部海音と朝井雪美。宇野さんには連絡したけど、騒ぎになる前に奪還して船に戻る。――行くぞ!」


「OK!」


 サングラスをかけたA、R、T、U、仮面をつけたXが返事をし、Aに続いて桟橋を駆けていった。

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