第62話 独り
「……! え……! A! しっかりして!!」
Rの声が聞こえ、気絶していたAはようやく目を覚ました。
目の前にRがしゃがみ込み、U、T、XはRの後ろに立っている。
「……R?」
「よかった……」
Rはホッと息をついた。
「! 海音と朝井さんは!?」
意識がはっきりしたAは慌てて起き上がった。しかし、四人はうなだれた。その態度が何よりの答えだった。
「そんな……クソッ……」
Aは唇が白くなるくらい噛み締めた。
「……一つ、わからないことがあるんやけど」
Tが口を開いた。
「何で奴らは、オレらとすれ違わずにマリーナに来れたんや?」
「簡単な話だよ」
Rが答えた。
「エレベーターを使ったんだよ。あのとき私達は階段を降りるのに夢中だった。踊り場から見えるエレベーターホールなんて見てないでしょ? そこを突かれたのよ」
「なるほど……」
Uが頷いた。
「貴方達……!」
と、背後から声がした。
驚いてマリーナの入り口を見ると、実鈴が立っていた。
「実鈴……!」
Aが立ち上がり、身構える。
「落ち着いて。マリーナからボートが何艘も出ていったから、様子を見に来たのよ。ほんとは貴方達がそろそろ動く頃だと思って金庫室に向かってたんだけど、事件先から連絡が入って足止めを食らってて、何があったかわかってないんだけど……」
「――実鈴」
Aはサングラスを外して実鈴に近づいてきた。
「頼みがある」
「相賀!?」
「いいんか!?」
R、T、U、Xが相賀を咎める。
「この際仕方ない。それに、奴らを一気に叩くチャンスだ」
「……何かあったのね?」
実鈴は五人のただならぬ気配に険しい表情をした。
「ああ。海音と朝井さんが奴らに誘拐された」
「――!?」
予想外の言葉に、実鈴は目を見開いた。
「さっき連絡が来た。奴らは二人を連れて組織が所有している小島に移動したらしい。俺が今から向かうから、実鈴は警察を集めて後から来てくれ」
「俺がって……一人で行くつもり!?」
実鈴が問うと、後ろの四人は「え!?」と目を見開いた。
「当たり前だ」
「ちょっと待って!」
瑠奈が叫んだ。
「どうして一人で行くの!? 私達も行くよ!」
「だめだ!」
相賀は怒鳴りながら振り返った。今まで見たことがないほど怖い表情をしている。
「あいつらが二人を誘拐したのは俺を誘き寄せるためだ。だったら、俺一人で行った方がいい」
「どうして、君を誘き寄せるためだってわかるんだ? 僕の可能性もあるだろ?」
仮面を外した翔太が、オッドアイを鋭く光らせながら訊ねた。
「……さっき、アルタイルに言われたんだよ。『今はお前に用はない。後で来い』ってな。翔太に用があるなら、翔太を狙うか、二人で来いって言うはずだろ?」
「……確かに」
「まああいつらのことだから、僕に用があるとは言わないだろうね。何かしらの方法で呼び出して、海に突き落とすことはしそうだけど」
瑠奈が頷くと、翔太は自虐的に笑った。
「……それに、あいつらは多分、俺達が全員で来ると思ってる。お前らと一緒に行ったら、あいつらの思惑通りになるだろ。だからだ」
「それでも! 二人は仲間だよ!」
「わかってくれよ!」
相賀は詩乃に噛みつくように怒鳴った。
「奴らは今回、翔太じゃなく二人を狙った! これが何を意味しているのかわかるか!? 奴らはもう手段を選ばないで俺を狙ってるんだ! そんなところに一緒に行けるわけ無いだろ!?」
「――っ」
詩乃は反論できず、黙ってしまった。拓真と瑠奈もうなだれる。
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