第151話 悪夢
「うわああああ!!!」
翔太が絶叫しながら椅子をひっくり返して立ち上がると、クラスの全員の視線が翔太に集まった。
「高山……? 大丈夫か?」
授業をしていた三浦永佑が尋ねるが、翔太は答えなかった。
(夢……か……)
荒い息をしながら汗で額に張り付いた前髪をかきあげると、血まみれの四人の姿がフラッシュバックする。
「!!」
慌てて見回すと、四人とも心配そうに翔太を見ていた。渡部海音と朝井雪美もいる。しかし、伊月はいない。
居ても立ってもいられなくなった翔太は教室のドアに向かって走り出した。
「翔太!」
木戸相賀が思わず手を伸ばすが、翔太はもう教室を出ていた。
「先生! 私が追いかけます!」
佐東実鈴が立ち上がり、教室を飛び出していった。
「……大丈夫かな、翔太……」
石橋瑠奈が心配そうに言った。
「ああ……」
相賀は教室の扉を見つめながら上の空で答えた。
シンとした教室に、大粒の雨が窓ガラスを叩く音が響いていた。
「はぁ……」
最近やけに頭痛を起こす伊月は、今日も頭を押さえながら廊下を歩いていた。と、曲がり角の向こうからドアを開ける音と、誰かの叫び声が聞こえてきた。二年A組のクラスは廊下の突き当たりにあるため、よく聞こえない。
「なんだ……?」
足を早めたその時、誰かが飛び出してきた。
「うわっ!」
激しくぶつかり、伊月が尻餅をつく。しかし、ぶつかってきた人物は振り返らずに走っていく。
「……高山?」
走り去る後ろ姿を見た伊月が怪訝そうに眉をひそめる。そこに実鈴も走ってきた。
「あ……」
座り込んだままの伊月に気づいた実鈴が足を止める。
「……何があったかは、クラスで訊いて」
それだけ言い、翔太の後を追って行く。
「……?」
顔をしかめた伊月は尻餅をついた際に散らばった教材類をバッグに戻し、実鈴の後を追った。
「ハァ、ハァ、ハァ……」
学校を飛び出した翔太は冷たい土砂降りの中闇雲に走っていた。風も強く、時々よろけてしまうものの、走り続ける。
どうして走っているのか自分でもわからない。けれど、止まれなかった。走っていないと、罪悪感に駆られる。じっとしていることなんてできない。そうこうしているうちに、町外れの丘に来ていた。
東屋の中に駆け込み、肩で息をする。
この間ベクルックスに撃たれた左上腕部が疼き、右手で押さえた。
(僕……やっぱ消えたほうがいいのかな……)
自分を庇ってケガをしたAが、痛みで歪めている顔が脳裏にフラッシュバックする。
「っ……」
奥歯を噛み締め、ケガを押さえる右手に力がこもる。
いつかあの夢のようになるなら。自分のせいで誰かを失うことになるなら。自分は――。
(クソッ……なんであんな夢……)
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