TARGET10 仲間を救い出せ!

第150話 惨劇

「何だ……またお前か」


 Xがビルの屋上にいると、聞き馴染みのある声がした。フッと微笑んで振り返ると、A、R、T、Uが立っていた。


「今日もターゲットは頂いたよ」


 Xは懐からターゲットの指輪を取り出して振ってみせた。


 近づいてきたAが仕方なさそうに笑う。


「まあしょうがないか。それ、ちゃんと持ち主に送っとけよ」


「わかってるよ」


 Xは言いながら指輪を懐に戻した。


「……雨降りそうだな。帰るか」


 空を見上げたAがウエストポーチからメジャーを取り出したその時――パシュッと小さな破裂音とともにAの胸から血が吹き出した。吹き出した鮮血がXに降り掛かる。


「がはっ……」


「――え?」


 Xには、それがまるでスローモーションのように見えた。何が起こったのか理解できない。自分の白手袋に飛んだAの血が染みていくのが視界に映る。


「――っ!! 相賀ぁ!!」


 Rが悲鳴のような声を上げ、倒れたAに駆け寄った。


「だめだ! 伏せっ――」


 ハッとしたXが叫ぶ。しかし、再び小さな破裂音がしてRの頭から血が吹き出す。


「っ……」


「……!!」


 さらに駆け寄ってきたTとUからも血が吹き出した。


「がっ……」


「きゃっ!!」


「……っ、み、皆……」


 四人の鮮血が服や頬についたXは、目の前で起きた惨劇が信じられなかった。視界が赤く染まっていく。


「……っ!」


 突然、視界が揺れた。立っていられなくなり、Aの側に膝をつく。


(だめだ……今はそんな場合じゃ……!)


「木戸君!!」


 Xは遠くなりそうな意識を無理矢理引き戻し、叫んだ。


「……翔、太……っ、かはっ」


 Aは撃ち抜かれた胸を押さえ、仰向けに倒れていた。しかし、シャツやジャケットかどんどん血に染まっていく。


「喋らないで! 救急車呼ぶから!!」


(こんなの……こんなの、絶対にだめだ……! 死なせてたまるか!)


 Xがスマホを取り出そうとポケットに手を突っ込むと、Aはその腕を血まみれの手でつかんだ。


「っ……」


 口から血を流しながらも、必死で顔を上げる。


「……逃げ……ろ……っ――」


 しかし、言い終わると同時にAの手から力が抜け、目の光が消える――。


「……!!」


(嘘……だろ……)


 呆然とするXの耳に、足音が聞こえてきた。


「伊……月……」


 屋上にやってきたのは大沢伊月だった。右手には消音器サイレンサーがつけられた拳銃が握られている。


「わかったか? 高山。貴様がいつまでも死なないからこうなるんだ。KもYも、もうこの世にいない」


 Xは伊月の言葉など聞こえていなかった。


 自分がいるから、皆が殺された。もう誰も失いたくない、誰も傷つけたくないとあれだけ願っていたのに――。


「ああっ……」


 頭を抱える。


 ――自分の、せいだ。


 その言葉だけが、脳裏を巡る。


「うわああああ……!!!」


 Xの絶叫は星一つ見えない空に吸い込まれていった。

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