第218話 あなただから

 瑠奈達の実力を、信じていないわけではない。むしろ自分の背中を預けられるほど信頼している。負けないとも思っている。だが、もし、万一のことが起きてしまったらと考えると、恐怖に支配されてしまう。


「……今だから言うけど、僕だって、怖さがなくなってるわけじゃないんだよ」


 ずっと黙っていた翔太が、ポツリと言った。


「僕のせいで皆が危ない目に遭うんじゃないかって、そういう怖さは多分、どうしたって消えない。いつも最悪の状況を想定するのは悪いことじゃない。けど、今までを振り返ったら、大丈夫だって思えてきちゃうんだよ。不思議だよね」


 そう言う翔太のオッドアイには、柔らかい光が揺れていた。


「大丈夫だって言って、本当に大丈夫だったからね。それに……僕にはもう、居場所があるから」


 相賀がハッと、顔を上げる。


「皆を守ることもそうだけど、自分が今いる、この居心地のいい所を、壊されたくないからね」


「相賀」


 瑠奈が、呼びかける。


「さっきも言ったけど、相賀は相賀だよ。それに、誰も相賀から離れたりしない。ここに皆がいることが、何よりの証拠でしょ?」


「……っ!」


 それは学校に行く前、翔太にも言われたことだった。


 見捨てるつもりならもう離れているはずだ、と。


 確かに、そうかもしれない。


 誰にも何も言っていないのに全員がここにいるということは、自分が皆の前から消えようとしていることに気づいたのだろう。そして、それを阻止するために追ってきた。


 見捨てるつもりなら、誰もこの場にいないはず。それこそ、独りぼっちになっているはずだ。


「……一つ、教えてくれないか」


 どうしても、確認したいことがあった。


「なんで、そんなに俺のことを信じてくれるんだよ?」


 万一、自分が組織に寝返る可能性もあるというのに、どうして。


「え、だって」


 瑠奈は、なんてことないように言った。


「相賀だから」


「……俺、だから?」


「うん。ずっと一緒にいればわかるよ。相賀が、信じられる人だって」


 相賀は、呆気に取られてしまった。


「ずっとって……俺四年しかここにいないんだぞ」


「そうかな」


 そう言ったのは、翔太だ。


「僕、ここに来て一年半だよ。けど、僕のこと、信じてくれてるだろ?」


「あ……」


 そういえば、そうだった。あまりにも馴染みすぎて、忘れそうになっていた。


「せっかく信じられてるんだから、信じられる人でいようよ」


 翔太の瞳が、また鋭い光を帯びる。


、君のやっていることは、それこそ皆を裏切る行為だ。僕がここにいていいのなら、君だっていていいはずだよ。君がここを離れる理由は、どこにもない」


「……伊月は、お人好しってよく言うけど、本当だよな」


 顔を上げた相賀の瞳には、光が揺れていた。


「……ありがとう、皆」


 一同が微笑む。


「まだ終わったわけじゃないし、皆にちゃんと説明しなきゃいけない。けど、こんな俺にも、ついてきてくれるか?」


「もちろん!」


「そのつもりだよ」


「当たり前や!」


「うん!」


「ついて行くよ」


「うん」


 一同が、力強く頷いてくれる。


 相賀は、顔をくしゃりと崩して笑った。

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