第53話 気づき

「全員集まったか?」


 某ビルの会議室。黒スーツの男達が何人も長机に座っていた。正面のスクリーンにはミルキーウェイ号が映っている。


「今から言うメンバー、ミルキーウェイ号に潜入しろ。アルタイル、ベガ、シリウス、ベテルギウス、プロキオン。今言われなかったメンバーは指示があるまで待機してろ。部下を連れて行くかは自由にする」


「大三角組か」


 端正な顔つきの背の高い男――シリウスがニヤリと笑って言った。


「フォーマルハウト、サポートに来い」


 タバコを吸いながら口を開いたのは、短髪に吊り目の男――ベテルギウスだった。


「……もう俺、一等星なんだけどな。今でもアンタの部下なのか」


 フォーマルハウトは苦笑いした。


「当たり前だ。一等星だからといって容赦はしない」


 ベテルギウスも薄い笑みを浮かべる。


「冬の大三角はいいとしても、アルタイルとベガは怪盗共に顔を知られてるからな、変装していけ。招待者になっても、船の船員になってもいい。オレが招集をかけたときにすぐに集まれるようにしておけ」


「はっ!」


 ベクルックスが言うと、全員が姿勢を正した。



 テスト一週間前。クラスはピリピリした空気が漂い始めていた。


「おい竜、ここわかるか?」


「俺に聞いてわかると思うか?」


「……だよな」


 慧悟と竜一が話す中、実鈴はじっとレポートを見ていた。五島警部に借りたものだ。その資料には、ミルキーウェイ号で開かれる渡部家の誕生日パーティーの内容が記されていた。


「……どうして、佐東さんがそれを見てるの?」


 不意に話しかけられ顔を上げると、海音が怪訝そうな顔をしていた。


「ミルキーウェイ号の警備、私も行くことになったの。だから警部から借りてきたのよ」


「え、そんな話聞いてない……。警備の話は兄さんに聞いたのに……」


 海音が目を見開く。


「昨日決まったのよ。仕方ないわ」


「そういうことか。わかった。よろしくね」


「ええ」


 頷いた実鈴は再び資料に目を落とした。


「……今度は、盗ませないわよ」


 海音はハッとして実鈴を見た。


 しかし、実鈴は気づかない様子で資料を見ている。


(今のは……)


 今の、発言は。まるで怪盗が来ることを予言しているような言い方。


(気付いて、いるのか)


 海音は険しい表情で自分の席に戻った。

 


「今回のターゲットはブルーダイヤだ」


 瑠奈達はアジトに集まっていた。


「ブルーダイヤ? ダイヤって色付いてるの?」


 詩乃が首を傾げた。


「あまり出回ってないけどな。他にもピンク、黄色、緑もあるんだ。全部希少だけど」


 答えた相賀はパソコンを操作した。


「場所は……ミルキーウェイ号だ」


「え!?」


 海音が驚いて腰を浮かす。


 スクリーンにはミルキーウェイ号が映し出された。


「オークションに出される予定だから、オークションの前に盗む」


「……渡部家が招待した客の中に、いるの? そのブルーダイヤを盗んだ会社の関係者が」


 海音は呆然と呟いた。


「いや、違う。数年前に盗まれたものが持ち主を転々としただけだ。今の持ち主はある富豪だ。決行日は船旅の二日目。けど、海音の家の船だし、実鈴も乗ってくるから、あまり派手な真似はできない。そこだけ気をつけてくれ」


 相賀の言葉に、全員が表情を引き締めた。

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