第54話 中間テスト
「よーい、始め!」
永佑の掛け声と共に紙をめくる音とシャーペンを走らせる音が響く。今日は中間テストの日だった。
(あ、思ったより簡単……)
まったく手を止めずに解答欄を埋めていく瑠奈や相賀とは対象的に、拓真は手を止めてばかりだった。
(何やこれ……。どう解くんや)
しかし、わからないところはわかるまで教えてくれた相賀達の顔が思い浮かぶ。
(よっしゃ)
気合を入れ直した拓真はシャーペンを走らせ始めた。
(……こんなん解いて、何になるんだか)
開始十分で解答欄をほとんど埋めた大田伊月はぼんやりと外を眺めていた。
(組織の命令とはいえ、オレは何をやってんだ……。スパイなら、オレの他にもいるのに)
伊月は、相賀達を探るために潜り込んだスパイだ。と言っても、怪盗達は自分がただの転校生ではないと気づいているだろう。
しかし、相賀達を探っているスパイは、他にもいる。自分を送り込む必要があったのか疑問だ。
(何だよ一体……。ここに来てから感じてる妙な違和感は……)
その違和感はずっと、しこりのように残っている。
伊月は真っ青に晴れ渡った空を険しい目で見つめた。
「終わったぁぁ!!!」
五時間目の英語が終わり、授業終わりの礼が終わった瞬間。黒野慧悟や相楽竜一が吠えた。
「竜! どっか行くぞ!」
「あー、悪い慧悟。部活あんだよ」
「何でだよ!」
永佑は騒がしい二人を軽く睨んだが、今日は甘く見ることにしたようだ。揃えた答案を持って教室を出ていった。
「どうだった?」
「あー……まあ、今までよりは解けたと思うわ。あってるかは知らんけどな」
「僕も行けたほうかな……。赤点なんて取ったら、じいやにすごく言われそう」
余裕そうな相賀に、難しい顔の拓真、苦笑する海音。
「……」
伊月は冷めた目でそれを見ると、教室を出ていった。
ベクルックスはアジトのビルの廊下を歩いていた。制服のズボンのポケットに両手を突っ込み、大股で歩いていく。
「ベクルックス様」
声をかけられ振り返ると、アルタイルが立っていた。いつもの偉そうな態度とは違う、へりくだったような立ち方をしている。
「……訊きたいことがあるのですが」
「何だ」
アルタイルがこんなことを言ってくるのは初めてだろうか。ベクルックスは少し眉をひそめて訊き返した。
「……どうして、スパイをやっているのですか? スパイなら、もうフォーマルハウトがやっているでしょう。やる必要はないのではないですか?」
この男は。いつも自分が疑問に思っていることを口に出してくる。脳筋だが、意外とそういうところがある。
「……さあな。ボスの命令だ。オレにはボスの考えは理解できない。何かしら理由があるんだろうけどな」
ベクルックスはぶっきらぼうに答えて歩き出した。
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