第55話 ミルキーウェイ号

「……え?」


 パーティー前日。パソコンを操作していた海音はある情報を見つけて目を見開いた。


「どうして……?」


 しばらく画面を見つめていた海音は、マウスのダイヤルを回し始めた。



「わぁ、すごい!」


 港に停泊しているミルキーウェイ号を見た詩乃は思わず声を上げた。


 真っ白な船体には美しい天の川が描かれ、舳先の方には五線譜に見立てた天の川に音符が描かれている。


「海音、なんで音符が書いてあるんだ?」


 相賀が尋ねた。


「渡部家は音楽系の仕事に就く人が多いんだ。名前にも入ってるしね。お父様は響希ひびきだし」


「へー……」


「それじゃあ、そろそろ行こうか。――じいや」


「はい」


 リムジンで海音達を港に送り届け、待機していた宇野うの晴彦はるひこはトランクから荷物を取り出し始めた。


 全員に荷物が戻ったところで、船から黒服を着た男女が数人降りてきた。


「あ、心配しなくていいよ。あれはボディガードだから」


 海音が先回りして言う。


 警戒しかけた相賀はそれを聞いて頷き、警戒を解いた。


「では海音様、私は車を停めてまいります」


「うん、じゃあ後で」


 頭を下げる宇野に手を振った海音はタラップに向かって歩き始めた。


「あら、渡部君」


 ふと声をかけられ振り返ると、実鈴が立っていた。


「あ、佐東さん。もう来てたんだ」


「ええ。ところで、私の兄や従妹にも招待状が届いたんだけど、送ったの?」


「え?」


 海音はきょとんとした。


「いや……。佐東さんは警備で来るって言ってたから招待状は用意してないはずなんだけど……」


「そう……。じゃあ知らせてくるわ」


「待って」


 海音は踵を返そうとする実鈴を呼び止めた。


「せっかく来てもらったんだし悪いよ。部屋は用意しておくから。二つ追加でいい?」


「でも……」


「ここまで来てもらったんだし、せっかくだから楽しんで行ってよ」


「……そこまで言うなら、そうさせてもらうわ」


 少し考えた実鈴は微笑み、今度こそ去っていった。


(……間違って送られた招待状?)


 相賀は眉をひそめた。


(……いや、まさかな)


 頭に浮かんだ嫌な考えを振り切った相賀は、先を歩く一同の後を追いかけた。



 船に乗り込んだ一同は海音の案内で船の廊下を歩いていた。真っ白な壁にふかふかのワインレッドのカーペットが敷かれ、所々に花瓶に生けられた花が飾られている。


「流石渡部財閥の船。豪華だなー」


「まあ、出張とかで海外に行くこともあるからね。こんな豪華にする必要はないんだけど」


 苦笑した海音はピタリと足を止めた。


「あ、ここだよ。個室で用意してるから、好きな部屋選んで。と言っても、どの部屋もあまり変わらないんだけど」


「……六つしかないけど、渡部君は?」


 翔太がようやく口を開いた。


「ああ、僕達は最上階に専用の部屋があるんだ。――どの部屋にも無線電話があるけど、これ僕の部屋の番号」


 海音は近くにいた瑠奈に番号が書かれた紙を数枚渡した。


「何かあったら遠慮なく電話してきて大丈夫だから」


「ありがとう」


 瑠奈は紙を配った。


「じゃあ僕、部屋に荷物置いてくるよ。五分後にここに集合で」


「ああ」


 一同が頷くと、海音はボディガードや宇野と一緒に廊下を歩いていった。


「この船、何階あるんやろか」


 拓真が独り言のように言った。


「ああ、さっき入り口にマップが掲示してあったから見たんだけど、地下含めて十あるらしいぜ」


「十!?」


 詩乃が声を上げる。


「まあ、地下は厨房とか機械室とかでスタッフ以外立ち入り禁止だから、俺達が行けるのは実質八だな」


「流石渡部財閥の船……」


 翔太が思わず相賀と同じ言葉を漏らす。


「とりあえず、部屋に荷物置いてこよ。誰がどこにする?」


 雪美が言った。


「じゃあ詩はここにする! 雪美、瑠奈、こっちこっち!」


「はいはい」


 手を振る詩乃に苦笑した瑠奈と雪美も部屋を決める。


 部屋割りは左から、詩乃、瑠奈、雪美、相賀、拓真、翔太の順番になった。

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