第20話 陰謀

「凄かったな!」


 相賀達が教室に戻る途中に会った先生達は皆そう言った。


「やっぱり、サラトを翔太君に任せてよかったな」


 教室に戻り、席に座った翼が言った。


「あ、そういえば」


 相賀は翼に、女子高生達のことを話した。


「はぁ……。学校まで突き止めんのか。面倒くさ……」


 翼は呆れたようにため息をついた。


「たまにいるんだよね、そういう迷惑なファンが。いつも雑誌とかでさり気なく牽制してるのに……」


「……あのさ」


 不意に翔太が口を開いた。


「安藤君って、芸能活動してるの?」


「ああ、翔太君には言ったことなかったね。僕、モデルやってるんだ」


「へ〜……」


 確かに、真っ黒な髪に白い肌。整った顔立ちは、モデルをやっていても何ら不思議はない。演技も、素人ではなかった。


「だから、たまに迷惑なファンのお陰で皆に迷惑かけちゃうことがあるんだよね。去年の修学旅行のときだって、観光中にファンに囲まれちゃってバスの出発が一時間くらい遅れちゃったし。ハァ……」


 翼は再びため息をついた。


「モデルの仕事は好きだし続けたいんだけど、皆に迷惑かけちゃうのはな」


「……そうなんだ」


 組織に狙われている身としては、表舞台に堂々と立てる翼が羨ましい。


 達成感に浮かれる教室の中で、翔太は一人、目を伏せた。



 薄暗い廊下。黒スーツを着た男が二人、話していた。


「仕掛けてきたか?」


 タバコを吸う男が、隣の男に話しかける。 


「ああ。威力が高いやつをな。けどいいのか? もし巻き込まれたら……」


「それで死ぬ奴らじゃない。お前だってわかってるだろ」


「そりゃ、そうだろうけど……」


「心配性だな。大丈夫だ。これでお前も俺も一等星に昇格できるんだから」


 タバコを吸っていた男は、指に挟んでいたタバコを床に落とし、踏みつけた。


「ま、楽しみにしとけよ」


 そう言って、もう一人の男を残して去っていく。


 残された男はほくそ笑んだ。


「ハッ……昇格するのは俺だよ」


 そう吐き捨て、スマホを取り出した。



「今回は楽な方だ。警備員のいない時間帯を狙ってるからな。ツインタワーは渡部財閥が建てたって海音が言ってたし、妙なやつもいないだろうからな」


「どうやって入るの?」


「あの展望台、張り出してるだろ? そこに作業員用の入り口があるんだ。そこは防犯カメラがあるだけだから、ハッキングすれば大丈夫だ」


 RとAはツインタワーの正面にあるビルの屋上にいた。夜風が二人のジャケットの裾をはためかせる。


「Xに来られると面倒だ。さっさと済ませるぞ」


「OK」


 二人は別のビルの屋上に向けてワイヤーを放った。そして展望台にワイヤーを放つ。展望台の屋根に飛び乗ると、Aがタブレットを操作し始めた。


「えっと、ここをこう……よし!」


 ハッキングを済ませたAが親指を立て、頷いたRがハッチを開ける。


「ターゲットは今は地下の保管庫に移動してる。警備員がいないかどうか確認してくれ。確認できたら俺も行く」


「OK!」


 Rはハッチから飛び降りた。小さな足音を立てて着地すると、サングラスの暗視機能を起動させる。


「赤外線センサーは無しか……」


 暗視機能を切ったRは階段に向かって走り出した。



 Aが展望台の屋根の上で待っていると、通信機から『OKだよ』とRの声が聞こえた。


「サンキュ」


 Aはタブレットをウエストポーチに入れ、ハッチから飛び降りた。そして階段に向かい、一段飛ばしで駆け降りる。


(次の巡回まで後三十分か……間に合いそうだな)


 ちらりと腕時計を見たAはジャンプして五段ほどを一気に降りた。



 RとAがさっきいたビルの屋上。そこに一人の男が立っていた。心配性を演じていた男だ。


「……そろそろか」

 

 男はスマホをジャケットのポケットから取り出した。



 金庫室からアメジストをあっさり盗んだAは、通信機に話しかけた。


「R、脱出するぞ」


『OK ……あれ? これなんだろう』


「どうした?」


『変なものが柱にくっついてるの』


「変なもの?」


 Aは眉をひそめて聞き返した。


『写真送るね』


「ああ」


 すぐにズボンのポケットに入れていたスマホが震え、AはLINEを開いた。Rから写真が送られている。


「これは……っ!」


 それを見たAからみるみる血の気がひいていった。


「R! 今すぐそこから離れろ!!」


『え?』


 突然怒鳴ってきたAに、Rが困惑する。



 突然Aに怒鳴られてRが困惑していると、柱に取り付けられていた物体からオレンジ色の閃光が放たれた。


「っ!」


 反射的に飛び退った瞬間――物体が爆発した。激しい熱風が周りに広がり、爆発した柱が崩れ落ちる。



 Rがいる十二階に向かっていたAの足元がグラグラと揺れた。


(地震……? いや、違う……!)


 揺れるのと同時に大きな音もしていた。


(やっぱり……あれは爆弾か……!)


 Rが送ってきた物体の写真は、粘土のような質感だった。おそらくプラスチック爆弾の一種だろう。


「R! R聞こえるか!? 返事しろ!!」


 通信機に必死に呼びかけるが、返答がない。


「クソっ!!」


 Aは走るスピードを上げた。


(頼む! 無事でいてくれ……!)


 しかし、その願いは届かなかった。


「!!」


 爆発の影響か、十一階から十二階へ続く階段にガレキが積もっていた。階段も大量のヒビが入っている。


「クッソ! これじゃ入れねえ……!」


 その時、Aの視界が揺れた。平衡感覚が狂い、思わずその場に膝をつく。


「っ! 何で……。! まさか……!」


(向こうで火事が起きてるんだ! マズイ……。一酸化炭素中毒になっちまう……!)


 ふらついたのは酸素濃度が薄かったからだろう。Aは体制を低くしたまま階段を降りた。


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