第72話 実鈴の天秤
地下に向かう階段を見つけた実鈴は階段を駆け下りた。そして角を曲がろうとしたとき、誰かにぶつかりそうになり、思わず横に飛び退く。
「な……実鈴!?」
驚いて顔をあげると――Uを支えて立っているAがいた。
「木戸君! 中江さんまで……」
「ああ……こてんぱんにやられたよ。瑠奈と拓真は無事か?」
「ええ。大分ボロボロだけどね。玄関ホールにいるわ」
「ありがとう。――翔太だろ?」
Aはホッとした表情を見せたのもつかの間、すぐ険しい表情に戻った。
「そうよ。私が様子を見てくるから、貴方達は玄関ホールにいて。警部達は下がらせてあるから大丈夫」
実鈴は言い終えるやいなや走り出した。
「……ありがとうな。マジで」
Aは走り去る実鈴の背に向け、ぼそりと呟いた。
「高山君!!」
角を曲がった実鈴は、壁に寄りかかって座り込むXと、Xを介抱する海音と雪美を見つけた。
「佐東さん!」
海音が立ち上がる。
「大丈夫? 容態は?」
「多分、無理しすぎたんだと思う。少し休めば良くなると思うけど……」
実鈴はXの仮面を外した。
目を閉じている翔太の額には脂汗が浮かび、肩で息をしている。
「そうね……あちこちケガしてるし、手当して一晩休めば良くなると思うわ。とりあえず玄関ホールに運びましょう。――立てる?」
実鈴は翔太に肩を貸して立ち上がらせた。
「……なんとか……」
ほとんど声になっていない声が翔太の口からこぼれ出る。
(なかなかまずい状況ね……すぐに病院に運ばないといけないけど……どうやって逮捕をかわすか……)
このまま外に出たら、外にいる警察達に怪盗のコスチュームを着ている翔太達が怪盗だとバレてしまう。今翔太達を逮捕させるわけにはいかない。
(確かに彼らは犯罪者。けど、何か事情がある。それに……今逮捕されたら、皆が……)
実鈴の脳裏にクラスメート達の顔が浮かぶ。
(皆が悲しむ。こんな終わり方、誰も納得がいかないわ)
この考えは、探偵としてあるまじき考えだと思う。けれど、クラスメートを問答無用で逮捕するのは探偵としてのプライドを捨てるより辛い。
(まずは、事情を聞かなきゃね)
決意を固めた実鈴は翔太を支えながらゆっくりと足を進めた。
なんとか玄関ホールにたどり着いた翔太は実鈴に手当を受けていた。
「これ……骨は折れてないけど、固定しておいたほうがいいわね」
実鈴は翔太の右上腕部に外で拾ってきた木の枝を当て、包帯でキツめに巻いた。そして頬の切り傷に絆創膏を貼る。
「とりあえずはこれで大丈夫ね。一番厄介なのは右上腕部の打撲だから……」
翔太の呼吸は大分落ち着いていて、汗も止まっていた。
瑠奈達もあちこちに絆創膏や包帯を巻いている。
「さて……あとはどうやって病院に行くか、ね」
実鈴の言葉に、相賀は目を見開いた。
「……捕まえないのかよ? チャンスだろ。そもそも、俺達の正体、前から知ってたんだろ。なんで捕まえてこなかった?」
「……そうね。捕まえようと思えばいつでもできたわ。けど、犯罪者とはいえ、同級生を捕まえるなんて気が乗らなかったのよ。それに、何か事情があるらしいしね……だから、今は捕まえない。けど、後で事情は聞かせてもらうわ」
「ああ」
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