第73話 海音の覚悟

 相賀は頷いた。すると実鈴はスマホをジャケットのポケットから取り出した。そして耳に当てる。


「あ、もしもし警部、お願いが……」


『待ってくれ実鈴君! まだ突入させなくていいのか!? 君は無事なのか!?』


「落ち着いてください警部。私は大丈夫です。負傷者が七人いるので病院に連れていきたいのですが、訳あって隠密にお願いしたくて……一回刑事さん達を下がらせてもらってもいいですか?」


『隠密に? 下がらせるのは構わんが……まさか、怪盗達か!? 逮捕するのか!?』


 状況を察知した五島が声を荒らげる。


「……いえ、怪盗達ではありますが、捕まえはしません。色々事情があるので。だから……」


『……わかった。まあいつも助けてもらってる君の頼みだからな。準備ができたら連絡する』


「ありがとうございます、警部」


 電話を切った実鈴はフゥ……と息をついた。


「これで大丈夫よ」


「……じゃあ、聞かせてもらおうか。いつ、俺達の正体を知った?」


「そうね……」


 実鈴はまた息をつき、話し始めた。


「貴方達を怪しいと思ったのはRが出てきた頃よ。その頃から、木戸君と石橋さんがケガをしている頻度が増えたのに気づいて、調べてみたのよ。そしたら、ケガしているのはいつも怪盗が現れた翌日だった。木戸君と石橋さんが怪盗だと確信したのは、ツインタワーの件。あのとき、燃え盛るタワーに飛び込もうとする木戸君を見てたのよ」


「あのときか……まあ俺もあのときは焦ってたからな。仕方ないか」


 相賀はやれやれと息をついた。


「ええ。高山君は色々不審なところがあったから調べたの。Xが出たタイミングと高山君が転校してきた時期が一緒だったし。林君達はまあ、すぐに予想がついてたわ」


「……だろうな」


 相賀が頷く。その時、実鈴のスマホが震えた。


「警部ですか? ……はい、わかりました」


 実鈴は電話を切って七人に向き直った。


「警察を全員下がらせたそうよ。普通に玄関から出て大丈夫よ」


「ああ……ありがとな」


 頷いた相賀は翔太に肩を貸しながら扉に向かった。


「待って」


 と、ずっと黙っていた海音が口を開いた。


「僕は船に戻らないと。もう六時だし、兄さん達にいないことがバレちゃうよ」


「おいおい……それはそうだけど、捕まってたんだから一応病院に行かないと……」


 相賀が顔をしかめる。


「僕は渡部家の次男だ。家族に迷惑はかけられないよ」


「海音君……」


 海音の覚悟を目の当たりにした雪美が呟く。


「……わかったわ。警部に頼むから、とりあえず出ましょう」


 諦めたような表情をした実鈴は扉を開けた。


 いつの間にか登っていた太陽の光が扉の隙間から玄関ホールに射し込んだ。

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