第71話 撤退
『
壁にもたれるAにナイフを突きつけていたベガは通信機から聞こえてきたアルタイルの声にチッと舌打ちをした。
「悪運のいいやつね。いいわ。今回は見逃してあげる」
ベガはナイフを持った手を下げ、Aに背を向けて歩いていった。
「ハァ……」
Aは壁に背中を滑らせながら座り込んだ。
「……運のいいやつだな。異常に粘りやがるし」
シリウスは目の前で構えるUを睨みつけた。ボロボロにはなっているものの、なんとか立っている。
「今回はこのくらいにしといてやる」
シリウスはそれだけ言うと、Uの横を通って去っていった。
Uは力が抜けたようにその場に座り込んだ。
「助かった……」
「うっ……」
廊下を走っていたXはふらつき、壁に寄りかかった。
「大丈夫!?」
海音と雪美が足を止める。
「ああ……流石に無理しすぎたな……」
脂汗を浮かべて肩で息をするXを、二人は心配そうに見つめていた。
「まず私が行きます。警部達は私が合図をしたら入ってきてください」
島に到着し、屋敷を包囲した警察に向かって実鈴が指示を出した。
「大丈夫なのか実鈴君! 君一人なんて……」
「急に警察が突入したら、敵がパニックになりかねません。その点、私なら一目で警察関係者とはわからないでしょう」
「それもそうだが……」
実鈴は不服そうな五島に微笑みかけ、窓に近づいていった。
「――!!」
玄関ホールに人が倒れている。実鈴はすぐにそれが怪盗達だとわかった。他には誰もいないようだ。
慌てて扉に駆け寄り、少し開ける。広い玄関ホールを見回すが、誰かが待ち伏せている気配もない。
実鈴は扉の隙間をすり抜け、近くに倒れているRに駆け寄った。
「石橋さん! しっかりして!」
肩をつかんで揺さぶると、Rは「うう……」とうめき声を上げた。
「林君!」
「ああ……なんとか大丈夫や」
壁に寄りかかって座っていたTが、なんとか立ち上がる。
「けど、奴らは逃げてしもたわ。残ってるのは、末端らしいあいつらだけや」
Tが指した先には、黒服の男達が何人も倒れていた。
「あと、まだX達が地下にいるはずや。朝井と海音も――」
Tが言いかけたとき、『誰か来て!』と雪美の悲痛な声が通信機から聞こえてきた。
「朝井か!? どないした!?」
『高山君が……!』
「くっそぉ!」
Tは歯噛みして地下に行こうとした。しかし、ふらついて壁にぶつかる。
「そんなボロボロじゃ動けないでしょ!? 何があったの!?」
実鈴が慌ててTに駆け寄る。
「……高山に、なんかあったみたいなんや。朝井の声が震えとった」
「……わかった。私が行くから。貴方は石橋さんの介抱をお願い」
「ああ。地下に行く階段はそこの通路にあるで」
「ありがとう」
実鈴は頷き、通路を駆け出した。
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