第134話 情
「――にしても、フォーマルハウトって誰なの?」
出会い頭で衝突しそうになった黒服を蹴りで吹き飛ばしながらRが訊いた。
「……さあな。電話も変声幾を通してたし、よくわからなかった。口調は男っぽかったけど、それで判断するのはマズイな」
口ではそう言うが、Aは心当たりがある。
(もっと情報があればよかったんだが)
小さくため息をついたAはKの指示に従って階段を駆け上がった。
「来たか」
スマホを横にして見ていたベクルックスは小さく呟いた。そして立ち上がる。
「結構ギリギリになったな。あと十分遅けりゃ、あいつら殺ってたんだが」
ニヤリと笑うフォーマルハウトがレザージャケットの内ポケットから拳銃を取り出した。
「情がねえな」
「お前が言うか? それ」
「十三年間兄としてあいつらに接してきたんだろ。貴様に指令が来たのは八歳のときだし、情くらい湧いたって不思議じゃねえ」
「……まあ、普通はそうだよな」
フォーマルハウトの小馬鹿にしていたような笑みが消えた。頬杖をつき、遠くを見ているような目をする。
「――俺さ、両親殺ってんだよ」
「……」
ベクルックスは何も言わなかったが、ピクリと眉を動かした。
「俺は日本人だけど、生まれはどっかの紛争地。俺の親は俺がとにかく邪魔だったらしくて、飯もろくにくれなかったし、いつも殴られてた」
そこまで言ったフォーマルハウトは椅子の背もたれに体を預け、天を仰いだ。
「七歳くらいのときか。突然空襲が来てな、パニックになった親が包丁で俺を襲ったんだ。もう俺の人生終わるのかって思ったな。けど、何でかは分からないが、死にたくないって思ったんだ。で、気づいたら、母親も父親も刺されて死んでいた。俺の手には血の付いた包丁があった。その後、空襲から逃げ回ってたら隣の国まで行ってて、そこでボスに拾われたってわけだ。俺の情は、両親を殺したときからないんだよ」
「……だから、階級も与えられていないのに潜入なんて任されたのか」
「年齢の問題もあったからな」
頷いたフォーマルハウトは立ち上がった。
「怪盗共来たんだろ。行くぞ」
「……貴様に指図される筋合いはないな」
フォーマルハウトを睨みつけたベクルックスは会議室を出ていった。
「ダメだ……どこにいるんだ……?」
Kは焦ったようにキーボードを打っていた。
「見つからない?」
「うん……防犯カメラをわざと設置してないのかもしれない。けど……」
Kはパソコンの画面に新しいウインドウを表示させた。
「ビルの見取り図からして、死角になっているところは各階に一箇所ずつあるんだ」
『それ、絶対狙ってるだろ』
KとYの会話を聞いていたAの声がヘッドホンから聞こえた。
『危険だけど、行ってみるか。分担したほうが早い。十一階から二十階だよな?』
「うん」
『わかった。一人二箇所担当しよう。二十階から俺、R、X、T、Uでいこう。それでいいか?』
『OK!』
Aに訊かれた一同が返事をした。
「死角になっているところはその都度指示する。まずは持ち場に向かって!」
『OK!』
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