番外編 本屋

「……これか」


 怪盗Aは本がぎっしり詰まっている本棚から一冊の本を取り出した。分厚い文庫本サイズの本だ。赤茶色の背表紙には金箔押しで英字が書いてある。


 Aは本の表紙をめくった。出てきたのは英語が書かれた紙ではなく――ラピスラズリのアクセサリーだった。ページがくり抜かれ、イヤリングやネックレスがしまわれていたのだ。


「R、盗んだぞ」


 通信機に呼びかけると、ドガッという鈍い音と共に『OK!』と怪盗Rの返事が返ってきた。


 Aは本をウエストポーチに入れ、部屋を出た。


「おい」


 突然、背後からドスの効いた声がした。振り向きざまに飛び退ると、Aが今まで立っていた位置に拳が振り下ろされていた。


「やってくれたなぁ……。それは俺の獲物なんだけどなぁ」


 目つきの悪い男がAを睨みつける。


「俺の? 違うだろ。お前が元の持ち主から奪ったんだろ。盗賊団『スネイク』のボス、コブラ」


 Aに睨み返された男――コブラはニヤリと笑った。


「いや、俺が盗んだから俺の獲物だ。この世は弱肉強食、奪われたほうが悪いんだからなぁ」


「……奪われたほうが悪い、か……。お前、人のこと言えるのか?」


「あぁ?」


 薄い笑みを浮かべたAは催眠弾をコブラに投げつけた。


「くっ!」


 催眠ガスがコブラの顔を覆い、コブラは煙を振り払うように顔を振った。


 Aはその隙にコブラから少し離れた天井のフックにワイヤーを引っ掛けた。そして振り子のように大きく体を揺らす。


「ハアアアッ!!」


Aはワイヤーから手を離し、振り子の勢いに乗せてコブラの腹に蹴りを決めた。


「ガハッ……」


 うめき声を上げたコブラがその場に倒れる。


「ハァ……」


 着地したAは息をついた。


「残念だったな。お前の負けだ」


 そう言い放つと、踵を返して去っていった。


  


 AはRと屋上で落ち合った。


「それで、何で本の中に宝石が入っていたの?」


 Rはサングラスを外し、石橋瑠奈に戻りながら尋ねた。


「簡単な話だ。これはある本屋から盗まれたものなんだが、この本、十年経っても売れなくて、店主の奥さんがページをくり抜いてアクセサリー入れにしてただけなんだよ」


 Aもサングラスを外し、木戸相賀に戻る。


「なるほどね」


 頷いた瑠奈はワイヤーを発射し、民家の屋根に飛び移った。相賀も遅れて後を追った。



「ああ、ここだ」


 商店街を歩いていた相賀はある本屋の前で立ち止まった。レトロな雰囲気の本屋で、看板には『ギャラクシー』とおしゃれな字体で書かれている。


 相賀は『A』と書かれたカードを本の上に載せ、本をシャッターが閉まっている店の前に置いた。


「じゃ、帰ろうか」


「うん」


 二人は微笑み合うと商店街を抜けていった。

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