第41話 予感

「知ってるだろうけど、やっぱり大田伊月は、ただの探偵じゃない」


 アジトに集まった一同は、翔太の話を聞いていた。


「昨日、ターゲットを盗みに入ったら伊月と遭遇した。それはいいんだけど、どう見ても警備員じゃない奴らがいた。ナイフとか銃を普通に向けてきたんだ。多分、伊月が差し向けてきた奴ら」


「差し向けるって……。伊月は探偵でしょ? 翔太を襲う必要はないじゃない」


 瑠奈が反論する。


「それが謎なんだ……。それと、木戸君」


 翔太がふと、相賀を振り返った。


「前から気になってたんだけど、伊月が転校してきた時、驚いたような顔してただろ? 何かあったのか?」


「ああ……」


 相賀が息をつく。


「……何か、似てるんだよ。俺と伊月の顔が」


「え? そう?」


 海音が言う。


「目の形がそっくりだった。それと……。雰囲気というか、感じが似てるんだよ」


「でも、相賀君と伊月君は全然違うじゃん」


 詩乃がリンゴジュースを飲みながら言った。


「……他人の空似だと、いいんだけどな」


 相賀は険しい表情で呟いた。



 その頃。伊月は薄暗い廊下を歩いていた。コツ、コツと足音だけが響く。


 不意に、握っていたスマホが震える。


 伊月は足を止め、スマホをタップした。


「……はい」


 相手の言葉に相槌を打つ。


「ええ……順調です。怪盗X――高山翔太を消すのは造作もないかと。……はい。木戸相賀の確保も進める所存です」


 電話を切った伊月は不気味な笑みを浮かべた。



「っ!!」


 相賀の背筋に鋭い悪寒が走った。


 足がふらつき、壁に拳を叩きつける。


「相賀……? どうしたの?」


 皆が相賀を見る中、瑠奈が訊く。


「……いや、何でもない」


(何だ今の……嫌な予感は……)


 翔太は冷や汗をかいている相賀を訝しげに見つめていた――。



 実鈴は自室にいた。パソコンのキーボードを打ち、エンターキーを押す。


「……何も出てこない……。そんなはずは……」


 小さく呟き、再びキーボードを操作しだした。



 相賀は地下室にいた。


 パソコンの画面をじっと見つめている。


 エアコンも消えた地下室は恐ろしく寒く、コンクリートの壁が余計冷たい印象を与える。


(今回は……やめた方がいいのか……?)


 厳しい目で画面を見つめる。


 その画面には、大田伊月が映っていた。



「やめろーっ!!」


 翔太は叫びながらガバっと身を起こした。


「……夢……か……」


 そこは自室のベッドの上だった。汗で濡れた髪をかきあげる。


「クッ……」


 奥歯を噛みしめながら俯く。脳裏に蘇るのは、家族三人に拳銃を向ける男と、叫びながら飛び出した翔太の耳に無情に響く銃声――。


 翔太はベッドから下りると机に置いていたロケットを手に取り、開いた。オルゴールのアンタレスが流れ出す。


 それを聞いていると、激しく波打っていた心臓が落ち着いてくる。


「ハァ……」


 息をついた翔太は窓から空を見上げた。月のない漆黒の空に無数の星が宝石のように瞬いている。


「何だったんだ……あの夢……」


 今まで見てきた悪夢とは違う。初めて見るものだ。


 翔太は嫌な予感を覚えずにはいられなかった。

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