第40話 確信
怪盗Xはビルの屋上にいた。
先日、A達が忍び込んだビルとは別のビルだ。
夜風がマントと長い前髪をなびかせる。顔を上げると、仮面の奥からオッドアイが覗く。
Xは屋上の扉を開け、ビルの中に入った。階段を駆け下り、鉢合わせになった警備員を催眠銃で眠らせる。
目的の部屋にたどり着いたXは素早く部屋の中に入った。壁に作りつけられた棚に近づき、その端にある金庫のダイヤルを回した。カチリと音がして、金庫が開く。
中にはダイヤモンドがあしらわれたネックレスが入っていた。
それを優しく手に取り、懐にしまった時――「見つけたぞ」と聞き覚えのある声がした。
ハッと振り返ると、大田伊月が立っていた。
「怪盗X。初めましてだな」
「……ハッ、知ってもらえてるのか。光栄だな」
「名乗っておこうか。オレは大田伊月。佐東実鈴に次ぐ探偵だ」
伊月はまた気取った挨拶をした。
「そして、お前を捕らえる者の名前だよ」
「……悪いけど、捕まるわけにはいかないよ」
不敵な笑みを浮かべたXは閃光銃を撃った。伊月の足元に着弾して閃光が辺りを包む。
Xは走り出した。伊月の手前でジャンプし、伊月の頭上を超えて廊下に飛び出す。
「じゃあな、探偵君」
軽く手を振って走り出す。
腕で目を覆っていた伊月はフッと唇に笑みを浮かべた。
「……これで終わりだと思うなよ」
部屋を出て、Xが消えた方向を見つめる。
「――貴様は、この世にいてはいけない存在だからな」
呟いて、ゾッとする様な笑みを浮かべた。
「なっ……!?」
屋上に向かっていたXは驚いて足を止めた。
目の前には、警備員らしき男達が数人。しかし、その手には銃やナイフなど、武器が握られていた。
「嘘だろ!?」
普通の警備員が、軽率にナイフや銃を出すはずがない。
それなら、こいつらは……。
ナイフを持った男が一人、突進してくる。
「クッ!」
それを紙一重で避けたXはジャンプして回し蹴りを放った。頭に蹴りが直撃した男が倒れる。
着地したXはすぐに横っ飛びに移動した。Xが立っていた場所に銃弾が突き刺さる。
(容赦なく撃ってくるか……)
転がったXは腰から銃を引き抜き、両手に構えた。そして連射する。
「うおっ!?」
煙と閃光に男達が怯んだ隙にマントを翻して男達の間をすり抜ける。
「待ちやがれ!」
銃を持った男が闇雲に連射する。
「っ……!」
一発の銃弾が右頬を掠めた。更にもう一発が足を掠める。
バランスを崩しかけたXだったが、なんとか体制を立て直し、屋上に向かった。
(やっぱり、大田伊月……。アイツは……)
Xの中には、一つの確信が生まれていた。
「おはよう翔太! ……それどうしたんだ?」
翌日。登校してきた翔太に慧悟が声をかけた。翔太の右頬には大きめの絆創膏が貼られている。
「ああ……。寝てる間に派手に引っ掻いててね」
「うわ、痛そうだな……。気をつけろよ」
「ありがとう」
席についた翔太の前の席に座っていた海音がくるりと振り返り、意味ありげに翔太を見る。翔太は息をついた。
「昨日、盗みに入ったらやられたんだよ」
「……後で、詳しい話聞くからね?」
「ああ」
海音の圧をいなしながら、翔太は窓の外に目を向けた。
「今日は大田が休みだ。じゃあ、
「アイツは休みか……」
相賀が厳しい表情をする。
(アイツは一体何なんだ……。探偵……の割には強引じゃねぇか?)
「相賀」
ふと、海音に呼ばれた。
「ん、何だ?」
「今日、高山君も入れて招集かけられる?」
「ああ、多分大丈夫だ。……あ、拓真は無理だな。中総体の練習があるはずだ」
「そっか……。じゃあ拓真以外でお願い」
海音が、いつになく険しい顔をしている。
「海音……」
相賀は心配そうに呟いた。
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