第161話 雪
必死に言い訳をする永佑をよそに、翔太はそっと窓に近づいた。ガラスに手を置き、空を見上げる。
「どうした? 翔太」
それに気づいた相賀がやってくる。
「……僕、雪嫌いなんだ。皆が殺られた日、雪が……降ってたから」
「……そうか」
相賀が神妙な面持ちで頷いた。
あのクリスマスの日だけじゃない。翔太に不幸が訪れる時は、いつも雪が降っていた。
祖母が病気で亡くなったのも、飼っていた猫が死んだのも、友達だと思っていた奴らに裏切られたのも雪の日だった。
翔太が産まれた二月十三日金曜日も雪が降っていたらしい。
だから、雪は嫌いだった。
「おい、そろそろチャイムなるから片付けてくれ」
まだ生徒に囲まれていた永佑の声が頼りなく聞こえた。
「……あの日、雪だったな」
オフィス街を歩いていたベクルックスは舞ってきた雪を見て足を止め、小さく呟いた。しかし、すぐに歩き出す。
時折すれ違うスーツ姿のサラリーマンやOLは不思議そうな目でベクルックスを見ているが、気にせずにあるビルに入る。
エレベーターに乗り込み、三十五階のボタンを押した。
上昇するエレベーターの中、ベクルックスはコートのポケットからスマホを取り出した。デフォルトの背景のロック画面にはメッセージアプリの通知が表示されている。
それは、慧悟や竜一が送ってきたものだった。プレゼントを持った一同のクラス写真と共に『来年は来いよ!』と書かれている。
「……くだらない」
吐き捨てたところで、エレベーターの扉が開く。
薄暗い廊下を歩き、ある部屋のドアを開ける。そこはいつもの会議室だった。
正面の壁にかかっている大きなスクリーンの前に置かれた長机ではデネブがパソコンを操作している。
「――動きは?」
「まだない。そろそろ仕掛けてもいいかもしれない」
「……そうだな。そろそろケリを付けたいところだ」
曖昧な反応をしたベクルックスは手近な椅子に座り、握っていたスマホを操作した。
「……あと六日か……」
険しい表情をしたベクルックスはカレンダーを表示したスマホの画面を見つめた。
「…………」
家に帰った翔太は部屋の明かりもつけずにパソコンに向かっていた。パソコンの画面が発する青白い光が翔太を照らす。その顔は張り詰めて見えた。
キーボードを打ち、エンターキーを押す。
数回瞬きをした翔太は息を吐きながら椅子の背もたれに体を預けた。右腕を額に乗せ、天井を見つめる。
ふと、オッドアイが陰った。
脳裏に、プレゼント交換をして笑い合っていた相賀やクラスメート達の顔が次々と浮かぶ。
「……明日、だね」
息を吐くように呟いた翔太は体を起こし、パソコンの奥にある写真立てに目を向けた。幸せそうな自分達が写った写真が入っている。翔太は手を伸ばし、その写真立てを伏せた。
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