第162話 余計なこと

 翌日の真夜中。怪盗Xはうっすら雪が積もったビルの屋上にいた。縁のそばに立ち、どこか遠くを見つめている。


 冷たい夜風がマントをなびかせる。吐いた息が白くなって消えていく。冷たい空気が肌を刺してくるが、今は気にならなかった。


 ふと仮面をつけた顔を上げ、澄んだ三日月と冬の大三角を見つめる。仮面の奥のオッドアイに瞬く星が映り込み、ゆらゆら揺れた。


 フーッと息を吐き出したXはポケットからスマホを取り出し、ロック画面を表示させた。時計は午前十二時半を差している。


「……そろそろのはずだけど……」


 スマホを戻したとき、背後の扉が開く音がした。


「……えっ?」


 振り返ったXは素っ頓狂な声を上げた。予想外の人物達が入ってきたからだ。


「お前もいたのか」


「な……何でいるんだよ?」


 突然現れた怪盗A達にXは戸惑った。このビルには盗品など無い。A達が来る理由がないのだ。


「何でって……ガセネタに釣られただけだ。ここに盗品の宝石があるってな。そう言うお前は何しに来たんだ?」


(ガセネタ?)


 そんなことあるのだろうか。あのK達が、今更ガセに釣られることなんてあり得るのか。


 としたら、A達が来た理由は……


「X?」


 すぐに返答しないXに、怪盗RとAが怪訝な顔をする。後ろの怪盗Uと怪盗Tも不思議そうにXを見ている。


「…………」


 Xは一瞬迷った。流石に言えない。けど、はぐらかすととことん追求されるだろう。そういう人達だ。ここは軽く流して、早く帰すしかない。


 ――巻き込むわけには、いかないから。


「……僕もそうだよ」


「……そうか。じゃ、帰るか」


 Aが屋上の縁に近づいたとき――「動くな」と聞き覚えのある声がした。


「――!」


 バッと振り返ると、拳銃を右手に持ったベクルックスが立っていた。後ろにはアルタイルとベガもいる。


(最悪だ……!)


 Xは内心舌打ちをした。あまりにもタイミングが悪すぎる。


「ベクルックス……」


「何でここに……!」


 何も知らないA達が身構える。


「黙っていろ。今日、用があるのは貴様らじゃない。Xだ」


 ベクルックスはXに目を向けた。


「…………」


 Xは唇を噛み締め、うつむいた。


「Xに用……?」


 Rが首を傾げる。


「Xはお前らに用なんか――」


「おい」


 Tの言葉を遮り、Aが口を開いた。今まで聞いたことがないようなドスの効いた低い声に、ベクルックスが思わずAに目を向ける。


「お前、翔太に余計なことすんじゃねぇよ」


「……余計なこと、な……」


「お前らにとっちゃ邪魔な存在かもしれないけどな、俺達にとっては大事な仲間なんだ。手ぇ出す奴は、容赦しない」


 普段とは違う乱暴な口調と声に、ベクルックスは少し黙った。

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