TARGET8 仲間の裏切り

第76話 それぞれの計画、始動。

「なぁ、ベクルックス」


 廊下で鉢合わせたベクルックスに、フォーマルハウトが声をかけた。


「……何だ」


「渡部財閥の子息が怪盗Kだったって、本当か?」


「……そこで嘘をつく必要があると思うか? そんなくだらないことでオレの時間を浪費するな」


 冷たく突き放したベクルックスがフォーマルハウトの横をすり抜けようとする。

  

「わかったよ。もちろん今のは本題じゃない。――そろそろ、潮時だと思うんだよ」


 ベクルックスはその言葉の意味がわかった。


「……貴様の好きなタイミングでやればいいだろう」


 ぶっきらぼうに返し、会議室のドアに向かって歩いていく。


「まあ……元からそのつもりだったけどな」


 小さく呟いたフォーマルハウトは踵を返し、ベクルックスとは逆の方向に歩き出した。


「……なら、こっちも始めるか」


 決意したような表情をしたベクルックスはドアを開け、会議室に入った。



「そろそろ文化祭の出し物考えなきゃな」


 夏休み明けの総合の時間。黒野慧悟がふと言った。


「あー、そういえばそうだね。去年は劇だったから、それ以外で考えようか」


 頷いた安藤翼がテキパキと仕切りだす。


「カフェとかどう?」


「俺はお化け屋敷やりたいな」


「レジンクラフトの店とか」


 クラスメートが思い思いに発言していき、辻香澄が素早く黒板に出た意見を書き留めていく。


「カフェの支持率が高いね」


「でも、カフェって人気あるし、他クラスと被ったら抽選になるから微妙なところだね。去年も二年A組と三年が抽選になって、三年が取ってたし」


 香澄と翼が考えていると「お化け屋敷はいいんじゃね?」と相楽竜一が口を開いた。


「意外とやるクラス少ねーんだよ。先生に聞いたら、ここ三年はどのクラスもやってないらしいぜ」


「えー……」


 不満の声を漏らしたのは長谷明歩だった。


「私、ホラー無理なんだけど……」


「自分でやるんだから、そこまでじゃないと思うぜ?」


「いやでも……」


「……じゃあ、迷路は?」


 渋る明歩に助け舟を出したのは、意外にも高山翔太だった。


「迷路?」


 翼が聞き返す。


「段ボールとかで迷路を作って、その中で驚かせるっていうのは? 幽霊とかじゃなくても、暗ければ何が出ても驚くんじゃない?」


「……確かに、いいかも」


「で?」


 頷く香澄の前で、慧悟が翔太を振り返った。


「幽霊とかじゃないって、じゃあ何で驚かすんだ?」


「架空の生物、狼男とかドラキュラとかミイラ男とか。そこまで怖いわけじゃないけど、暗いところで会えば怖いんじゃない?」


「あー、ハロウィンの仮装みたいな感じ?」


「想像してたのはそんな感じ」


 翔太は翼に頷いてみせた。


「それなら、明歩ちゃん怖くないんじゃない?」


 神田柚葉が身を乗り出す。


「……多分、大丈夫」


 少し考えた明歩が頷いた。


「プレイヤーには迷路をクリアしてもらいながらこっちはプレイヤーを驚かすってわけか。いいんじゃね? 面白そう」


 阿部光弥が話の要点をまとめ、賛同する。


「……とすると、広い部屋が必要だよね」


 石橋瑠奈が口を開く。


「あー確かに。体育館……はだめか。二日目のパフォーマンスがあるもんな」


「教室じゃあ狭いよね……」


 木戸相賀と中江詩乃が考え込む。


「視聴覚室は? 教室よりは広いし、カーテンも遮光のはずだし」


 佐東実鈴が提案した。


「いいなそれ。じゃああとで交渉する」


 教室の隅で話し合いを静観していた三浦永佑が声を上げた。


「じゃあ場所はあとにして、誰がなんの仮装をするか決めようか。候補としては……」


 翼が更に話を進める中、大田伊月は話をろくに聞きもせずに窓の外を見ていた。翔太はそんな伊月を探るような目で見つめていた――。

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