第43話 解決
「飯島さん、貴方、右手中指に怪我をしていますよね?」
飯島の右手中指の腹には絆創膏が貼られていて、血が滲んでいた。
「……そうだが、それがどうした」
「手袋はしていたと思いますが、人の首を絞めるのは相当な力がいる。力が入って中指が擦れ、血が滲んでしまい、ロープについた――と、考えているのでしょ?」
実鈴が伊月を振り返ると、伊月はフッと笑った。
「そのとおりだ。その絆創膏は見る限り、そこまで厚いものではない。つまり、山田の部屋からロープを見つけてついている血液のDNA鑑定をすれば、お前があのロープを使ったという証拠になる。それと、血が滲んだ手袋も飯島の部屋にあるんじゃないか?」
伊月が言うと、しばらく考えていた五島警部が声を上げた。
「よし、飯島幸哉さんと山田瞳さんの部屋をしっかり捜索しろ!」
「――そんなことしなくても、ここにあるよ」
飯島が急に口を開いた。そして、ワイドパンツのポケットから薄い軍手を取り出して床に落とす。
中指の部分には血がついていて、所々に繊維のようなものが絡まっていた。
「全部そこの探偵達の言う通りさ。西村を殺せた嬉しさでロープについた血なんて、全然見えていなかったよ。まさか自分に自分の足元をすくわれるとはね」
「じゃあ、飯島君……」
ずっと後ろでやり取りを見ていた数人の内の一人の女性が口を開く。
「そうさ! 山田と飯島に殺された妹、
「そんなの仇討ちじゃない!」
実鈴が叫んだ。
「確かに西村さんと山田さんは、貴方の妹さんが自殺する原因を作った。けれど、殺すことで仇を討てると考えているのなら、貴方は妹の仇を取ったと思い込んでいるだけのただの殺人者よ!」
「言わせておけば……! このガキ!」
「子供なのは貴方の方よ! 死んでいい命なんてこの世に一つもない。誰かが死ぬということは、誰かが悲しむということ! 貴方はそれを痛いほど感じたんでしょ!? だったら、どうして他の人に同じ想いをさせるのよ!」
ハッとした飯島から、怒りのオーラが消えた。
ガクリと膝をつき、すすり泣く。
「飯島幸哉。殺人の容疑で逮捕する」
五島警部が飯島に近寄り、手錠をかけた。
「……それで大田君、貴方どうして――」
実鈴が言いながら振り返ると、伊月の姿はもうなかった。
「え? どこに……」
慌てて辺りを見回すも、もうどこにもいなかった。
「……」
実鈴の中に、一気に対する疑念が一気に膨らんでいった。
「……救世主とか言う割には、大したことなかったな。オレが一瞬であれを解いたというのに、アイツはオレの何倍の時間をかけて間違っていたわけか」
伊月は暗い路地を歩いていた。スマホを見ながらそう言い、フッと歪な笑みを浮かべる。
「アイツがオレ以上の頭脳を持っているなら問題だったが……。気にしなくて良さそうだ」
スマホをジャケットのポケットに入れた伊月は、そのまま両手をポケットに突っ込みながら歩いていった。
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